同一労働同一賃金

同一労働と同一賃金とは?企業としての対応のポイント

同一労働同一賃金は、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法、以下「パ労法」といいます。)において、短時間労働者及び有期雇用労働者(以下「契約社員」といいます。)につき、第9条が「均等待遇」を義務付け、第8条が「均衡待遇」を義務付ける形で規定されています。
均等待遇とは、賃金・賞与等において契約社員と正社員とで同じ待遇にすることを求めるものであり、均衡待遇とは、賃金・賞与等において契約社員と正社員とで異なる待遇をする場合、それが不合理なものであってはならないとするものです。

ここでは、どういう場合に均等待遇が求められ、どういう場合に均衡待遇が求められるのか、いかなる場合に、均衡待遇において差別的待遇が不合理であるとされるのか、企業としてはどのように対応すべきなのか、この問題についての紛争処理の仕組みがどうなっているのか等について説明していきます。

《 同一労働同一賃金とは 》

同一労働同一賃金とは~欧米型とは違う日本型同一労働同一賃金

欧米ではジョブ型雇用が主流であり、日本ではメンバーシップ型雇用が主流となっています。ジョブ型雇用とは、具体的な仕事を特定したうえで、その「仕事に必要な技能を持っているか」を見て雇うものであり、メンバーシップ型雇用とは、終身雇用制度の下、具体的な仕事を特定せず、さまざまな仕事につかせる中で適性を把握するため、将来性・能力・人柄等から「自社のメンバーとして相応しいか」を見て雇うものです。

ジョブ型雇用は、企業間でよりよい待遇を求めて移動する横断労働市場が存在する欧米型雇用と相性がよく、メンバーシップ型雇用は、企業内で配置転換により、様々な職務を経験し昇進していく企業内労働市場が発達する日本型雇用と相性が良いとされています。また、ジョブ型雇用では職務給(従事する「仕事」を金銭評価し、スキル向上・仕事の高度化等がない限り昇給はなく、時給制の場合も多い。)がとられ、メンバーシップ型雇用では職能給(その「人」自体を金銭評価し、基本的には、勤続年数に従い定期昇給し、月単位の固定給制がとられる。)がとられます。ジョブ型雇用のもと職務給制度をとる欧米では、同一労働同一賃金を観念することは容易ですが、メンバーシップ型雇用のもと職能給制度をとる日本において、欧米型の同一労働同一賃金はなじみにくい制度といえます。

パ労法9条は、正社員と契約社員とで、仕事が同一であり、配転や転勤も同一に行われている場合には、同じ賃金、賞与を払うように求めていますが、日本の企業でこのような人事制度をとっているところはほとんどなく、9条の均等待遇が求められる職場はほとんどないといってよいでしょう。

このため、日本型雇用においては、欧米型の同一労働同一賃金ではなく、日本型の同一労働同一賃金制度が定められることになり、それがパ労法第8条の均衡待遇なのです。第8条は契約社員と、正社員との間で待遇が異なる場合、①業務の内容、②当該業務に伴う責任の程度、③①及び②の内容及び配置の変更の範囲、④その他の事情の違いを見て、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、その待遇の違いが不合理かどうかを判断し、不合理な差別があってはならないとしています。 なお、第8条は、①と②を合わせて「職務の内容」と呼び、上記①~④を総称して「3要素」と呼んでいます。以下の説明で「3要素」というときは、この①~④のことを言い、「職務内容等の要素」というときは、①~③のことを言っているとお考え下さい。

同一労働同一賃金の対象となる従業員~パートタイム労働者と有期契約労働者

パ労法は、短時間労働者または有期雇用労働者と正社員の間で、賃金・賞与・諸手当等の労働条件に違いがあったり(均等待遇違反)、その違いが不合理なものといえる場合(均衡待遇違反)には、その違いを許さず、民法上、その場合の従業員は会社に対して、その差額に当たる金額を損害賠償として請求できることになっています。

ここでいう「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(通常は正社員)の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者をいいます。
ここでいう「有期雇用労働者」とは、会社と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいいます。有期雇用労働者が、更新を繰り返すことによって、継続的な雇用関係を生ずるにようになることがありますが、この場合も無期契約労働者に転換しない限りは、有期雇用労働者になります。

比較対象となる正社員~正社員の中で、どの従業員を比較対象者に選び、不合理性の有無を判断すべきか

契約社員が、正社員との間の均等待遇または均衡待遇を主張するにしても、比較対象となる正社員も、職務の内容はばらばらです。例えば会社役員と自分を比較して均衡待遇を主張しても、職務の内容等の要素は大きく異なりますから、労働条件に違いがあっても不合理でないとされてしまいます。ですから、契約社員としては、正社員の中で、職務内容等の要素においてなるべく近い従業員群を選択して、差別が均等待遇または均衡待遇に反しないかを主張する必要があります。

したがって、当該契約社員は以下の(1)の正社員がいれば(1)の正社員を、(1)の正社員がいなければ(2)の従業員を、(2)の正社員がいなければ(3)の従業員をというふうに、職務内容等の要素が自分に近い順に正社員を選択し、均等待遇または均衡待遇を主張することになります。

  • 「職務の内容」及び「職務の内容及び変更の範囲」が同一である。
  • 「職務の内容」は同一だが、「職務の内容及び変更の範囲」は同一でない。
  • 「職務の内容」のうち、「業務の内容」、「責任の程度」のいずれかが同一だが、他は同一でない。
  • 「職務の内容」は同一でないが、「職務の内容及び変更の範囲」が同一である。
  • 「職務の内容」、「職務の内容及び変更の範囲」のいずれも同一ではない。

上記のうち、(1)の場合は均等待遇が求められ、(2)以下の場合は均衡待遇が問題になります。
もっとも、正社員の一人がコネ入社で、その正社員が自分と同じ仕事をしているという場合に、その正社員と待遇が違うといった主張はできません。ここで比較対象となるのは、総合職、地域基幹職、一般職といったような正社員雇用管理区分のどれかということになります。

均等待遇とは(パ労法9条)~同一賃金を払わなければいけないというルール

「職務の内容」及び「職務の内容及び変更の範囲」が同一である場合は、賃金・賞与・諸手当について、同一の待遇(均等待遇)が求められます(パ労法第9条)。

ここでいう「職務の内容及び変更の範囲」ですが、正確には「当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの」をいいます。
「当該事業所における慣行その他の事情」とありますので、これには、契約社員の就業規則には配転規定がなくとも、慣行上、配転命令が行われている場合が考えられます。また「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間」とあるのは、契約社員が入社当時は、職務内容等の要素に違いがあったが、その後、職務内容等の要素が同一になって以降、退職までの間における「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同一と見込まれるかどうかを意味しています。

前述したように日本の企業で9条に該当するような人事を行っている会社はほぼないといっていいでしょう。ですから、9条はあっても空文に近く、同一労働同一賃金は8条の均衡待遇が争われる場合がほとんどといってよいでしょう。

ただ、就業規則の規定の仕方によっては、均等待遇を求められてしまう可能性があります。就業規則で、もし「正社員」の定義規定が「全従業員」となっており、契約社員も含めてものになっていると、均等待遇を求められかねません。正社員の定義を「第2章「採用」の手続きに従って正社員として採用された者」というように、契約社員が含まれない形で規定する必要があります。

均衡待遇とは(パ労法8条)~労働条件に違いがあっても不合理でなければ許されるというルール

パ労法第8条は「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」と定めています。

その他の事情では、当該待遇差が生じた経緯、当該賃金体系が労使協議の結果定められたものか、正社員への登用制度があるかどうかなどが、検討の対象となります。

どういった待遇の違いが問題となるかですが、まず、①違いが問題となっている待遇の趣旨・目的が何か、②職務の内容、変更の範囲を比較し、違いがあるかどうかを見ます。例えば、当該住宅手当の目的が転勤等による住宅費負担を目的とするものであり、他方、当該契約社員が転勤する可能性がないとなると、契約社員に当該住宅手当が支給されないとしても不合理ではないとなります。

厚労省が発表した同一労働同一賃金ガイドラインでは、給与面において、正社員には払うが契約社員には払わない場合に問題となりうるものとして①賞与、②役職手当、③特殊業務手当(業務の危険性等に応じて支払われる手当)、④特殊勤務手当(交替勤務制などの勤務の特殊性に応じて支払われる手当)、⑤精皆勤手当、⑥時間外労働手当、⑦深夜・休日出勤手当、⑧通勤手当・出張手当、⑨食事手当、⑩単身赴任手当、⑪地域手当を挙げています。①の場合はケースバイケースになりますが、②は役職のない契約社員に支給されなくても不合理ではなく、③~⑤は「業務の内容」が同一なら原則不合理な差別になり、⑥~⑨の手当は「業務の内容」の如何にかかわりなく原則不合理な差別となり、⑩、⑪は地方への転勤が理由となっているため、原則不合理な差別とはならないでしょう。
ガイドラインに入っていませんが、基本給については原則不合理とはならず、退職金も賞与と同じくケースバイケースとなります。

またガイドラインは、福利厚生面において、待遇に違いがある場合問題となりうるものとして①福利厚生施設、②転勤者用住宅、③慶弔休暇・健康診断に伴う勤務免除・有給保障、④病気休職、⑤勤務期間に応じて認める年休・休暇、⑥教育訓練、⑦安全管理を挙げています。①、⑥、⑦は不合理な差別となり、②は転勤等がない契約社員について認めないとしても原則不合理な差別にならず、③は勤務年数により相違を設ける余地があり、④、⑤は長期の勤務を期待してのインセンティブといえ、5年以上勤続の従業員に認めないと不合理な差別とされかねません。

基本給、賞与、退職金を考える場合、正職員は、仕事の内容は特定されておらず、本人の意思に関わりなく、法人がこの仕事をするように言われれば、その仕事をし、この職場に移れと言われれば、その職場に移らなければなりません。契約職員は、契約上仕事の内容も、勤務すべき場所も決まっており、違う仕事をするように、他の事業所に行くように言われても、これを拒否することができます。同じ仕事をしていても、負っている責任が違えば、給与(定期昇給の有無)、賞与、退職金が違うことがありうるのです。これらについては別項を設けて詳しく説明します。

均衡待遇の判断基準を示した5つの最高裁判例

以下の最高裁判決は、パ労法8条、9条ができる前に起きた事件についてのものであり、労働契約法20条に関するものです。

パ労法改正前、パ労法には現在の9条に相当する均等待遇の規定がおかれ、労働契約法20条には、パ労法8条に相当する均衡待遇の規定がおかれていましたが、パ労法8条で均衡待遇が、9条で均等待遇が定められるとともに、労働契約法20条は削除されました。しかし、両条文とも内容は全く同じです。

それでは、なぜ労働契約法20条で規定されていたものを、わざわざパ労法8条で規定するようになったのでしょうか。労働契約法は民事関係を規律する法律であり、行政はその内容に関与できません。しかしパ労法は行政取締法規のため行政指導が可能になります。行政として、同一労働同一賃金を労使の争いに委ねることなく、これの実現のため行政が積極的に関与して行こうとの意図のもと、同じ内容の条文を労働契約法からパ労法に移したのです。ですから、以下の5つの最高裁判決は、パ労法8条の解釈にそのまま当てはまります。

1. ハマキョウレックス事件(最高裁平30.6.1)

有期契約社員のドライバーが、諸手当について職務内容が同じ正社員のドライバーとの間で差異があり、労働契約法20条に違反するとして、差額分を請求した事案です。 最高裁は、次のとおり、諸手当ごとに不合理か否かを判断しました。

㋐住宅手当:転勤を前提とした制度であり、転勤が予定されている契約社員に支給しないことは不合理ではない。
㋑皆勤手当:皆勤を奨励し労働力を安定的に確保するための制度であり、皆勤を求める必要性は、契約社員と正社員とで差はなく、契約社員に支給しないことは不合理である。
㋒無事故手当:安全運転及び事故防止の必要性からできた制度であり、この必要性は、契約社員と正社員とで差がなく、契約社員に支給しないことは不合理である。
㋓作業手当:特定の作業を行ったことに基づく手当であり、契約社員と正社員とも同じ作業を行っている点で差はなく、契約社員に支給しないことは不合理である。
㋔給食手当:勤務中に食事をする労働者のための生活費補助的な制度であり、勤務時間中に食事をとることを要することに、契約社員と正社員とで差はなく、契約社員に支給しないことは不合理である。
㋕通勤手当:通勤に要する費用が、契約社員と正社員とで違うことはなく、契約社員に支給しないことは不合理である。

2. 長澤運輸事件(最高裁平30.6.1)

正社員を定年退職後に有期契約社員として再雇用された従業員が、正社員時代と全く同一の業務についており、「職務内容」及び「職務内容及び配置の変更の範囲」が、正社員のそれと全く異ならないにもかかわらず、正社員と比べ約79%の年収しか得られていないのは不合理だとして、その差額を請求した事案です。 最高裁は諸手当については次のように判断しました。

㋐精勤手当:精勤を奨励する趣旨で設けられた手当であり、精勤の必要性において、契約社員と正社員とで差はなく、契約社員に支給しないことは不合理である。
㋑住宅手当・家族手当:幅広い世代の労働者が存在する正社員については必要性があるが、定年退職し、老齢厚生年金の支給を予定されている再雇用の有期契約社員について支給しなかったとしても不合理ではない。
㋒役付手当:役職についていることについて支払われる手当であり、役職についていない有期契約社員に支払われなかったとしても不合理ではない。
㋓超勤手当(正社員)と時間外手当(契約社員):時間外労働を行ったことの対価であり、同じく時間外を行った有期契約社員に支払わないのは不合理である。

基本給の差(正社員は職務給及び能率給、契約社員は基本賃金及び歩合給)、賞与額の差については、定年後再雇用された者であること、退職金を受け取っていること、団体交渉を経て歩合給の係数が能率給の係数の約2~3倍に設定されたこと、調整給が2万円支給されていること、老齢厚生年金を支給されること、年収が退職前の約79%あること等を「その他の事情」として考慮し、かかる違いは不合理ではないとしました。

3. 大阪医科薬科大学事件(最高裁令2.10.13)

大学の教室事務を担当していた有期アルバイト職員が、賃金・賞与・年休・休暇・私傷病欠勤・医療費補助における正職員との相違が不合理であるとして、大学を訴えた事案です。 最高裁は個々の労働条件の差異について、次のように判断しました。

㋐賞与:賞与は、上記賞与は、通年で基本給の4、6か月分が一応の支給基準となっており、その支給実績に照らすと、法人の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。正職員の基本給は、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、法人は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。
なお、教室事務を行っている正職員は、英文学術誌の編集・病理解剖に関する遺族対応・部門間連携・毒劇物の管理といった難易度の高い業務をしており(職務の内容)、配置転換もあり(職務の変更の範囲)、正職員登用状況・教室事務の正職員から契約職員の置き換えの経緯=前記の高度な業務もあるため、全員を有期契約職員にできなかった事情の存在(その他の事情)からすれば、新卒正職員との年収差(55%程度)があっても不合理ではない。

㋑私傷病欠勤中の賃金:私傷病欠勤についても正職員には給与の2割を補填するのは、正職員がこれまで長期就労し、今後も継続して就労してもらうことを期待し、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものであり、長期勤続を前提としていない有期アルバイト職員に、かかる措置を行わないことは不合理ではない。

4. メトロコマース事件(最高裁令2.10.13)

地下鉄構内の売店に販売員としてフルタイムで働く有期契約社員が、基本給、資格手当、早出残業手当(割増率に2%の差)、賞与、退職金、住宅手当、褒賞などの違いが不合理であるとして、その差額を請求した事案です。

第2審の東京高裁判決(平31.2.20)は、基本給、資格手当、賞与については不合理性を否定したが、褒賞、住宅手当については不合理性を認めました。住宅手当について不合理性が認められたのは、同手当が実際に住居費を負担しているか否かを問わず、払われていることから、「福利厚生及び特に住宅費を中心とした生活費補助の趣旨で支給されたものとして、契約社員に支給しないのは不合理であるとしたのです。この判決が特徴的なのは、退職金について、本退職金が賃金の後払い、功労褒賞等の性格があるとし、原告らが10年以上勤務し、定年も65歳となっていることから、「長期勤務に対する褒賞としての部分」についても退職金が支給されないのは不合理であるとして、正社員なら受け取れたであろう金額の4分の1相当額の損害賠償を認めたことです。会社側は、退職金4分の1相当額の損害賠償が認められた部分につき不服であるとして、上告しました。

最高裁は次のように述べ、有期契約社員に退職金の支給がないことについて、不合理ではないとしました。

当該会社の退職金は、「本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ、その支給対象となる正社員は、第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり、また、退職金の算定基礎となる本給は、年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。」「当該退職金制度の支給要件や支給内容等に照らせば、上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、第1審被告(会社)は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる」としました。

そして、3要素について次の点を述べ有期契約社員に退職金を支払わなかったとしても不合理ではないとしました。

㋐職務の内容:正社員は有期契約社員が行わない「休暇や欠勤した販売員に代わって行う代務業務」「エリアマネージャー業務」につく点で違いがあった。
㋑変更の範囲:正社員は、配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、有期契約社員は、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても、業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかった。
㋒その他の事情:売店業務についている正社員は、かつて関連会社の再編成により、当該会社に正社員として雇用されることになった者と、有期契約社員だったものが登用試験により正社員となった者がほとんどであり、賃金水準を変更することが困難な事情があった。また、有期契約社員については開かれた試験による登用制度があり、実際正社員になった者も相当数いた。

5. 日本郵便事件(最高裁令2.10.15)

郵便集配業務など、郵便の業務に従事する時給制 有期契約社員(1週平均30時間、35時間または40時間勤務していた)が同じく郵便業務に従事する正社員との待遇差につき、不合理な差別であるとして損害賠償をした事案です。 裁判所は個々の労働条件の差異について、次のように判断しました。

㋐年末年始勤務手当: 多くの労働者が休日として過ごしている期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また、年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と 時間に応じて一律である。上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、本件契約社員にも妥当するものである。そうすると、両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは、不合理である。

㋑年始期間の勤務に対する祝日給:本件契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者も存するなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている。そうすると、最繁忙期における労働力の確保の観点から、本件契約社員に対して上記特別休暇を付与しないこと自体には理由があるということはできるものの、年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、本件契約社員にも妥当するというべきである。祝日給を正社員に支給する一方で本件契約社員にはこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違があることは、不合理である

㋒扶養手当:正社員に対して扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。もっとも、上記目的に照らせば、本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして、本件契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると、両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理である。

判例のまとめ

時給制の有期契約社員と正社員の待遇差について4判例がどう判断したかを示します。不合理性はないとされたものには〇、不合理性ありとされたものは✕としました。

待遇 ハマキョウレックス事件 大阪医薬大事件 メトロコマース事件 日本郵便事件
賞与
退職金
住宅手当
通勤手当
扶養手当 ✕※
皆勤手当
年末年始手当
年末年始の祝日給
私傷病欠勤中の給与の一部支給 〇※
無事故手当
作業手当
給食手当

※印のあるものは「長期にわたり継続して勤務することを期待し、その生活を保障し、雇用を維持し確保しようとする」目的から支給されるものであるから、契約社員が短期勤務を前提とする場合は支給しなくても不合理ではないが(大阪医薬大事件)、継続的な勤務が見込まれる場合は不合理であるとされました(日本郵便事件)。

退職金の差異の不合理性の有無

この問題について、メトロコマース事件最高裁判決(令2.10.13)は、10年以上勤務し、定年も65歳となっている有期契約社員について、退職金が支払わなかったとしても、不合理ではないと判断しました。 メトロコマース事件最高裁判決は、退職金の性質について次のように述べています。

本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ、その支給対象となる正社員は、第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり、また、退職金の算定基礎となる本給は、年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。」

「当該退職金制度の支給要件や支給内容等に照らせば、上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる」

そして、前述のとおり、職務の内容、変更の範囲の違い、その他の事情(関連会社の再編成により、旧従業員の待遇を維持しなければならなかったとの事情)を述べ、有期契約社員に退職金を支払わなかったとしても不合理ではないとしました。 上記のとおり、退職金が勤続年数に応じた金額を支払うようになっている場合は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものとし、3要素を判断しつつも、不合理性を否定される場合が多いものと思われます。

なお、ヤマト運輸事件(仙台地裁平29.3.30)及び井関松山製造所事件(松山地裁平30.4.24)も、賞与金額に差があっても、不合理ではないとしています。

賞与の差異の不合理性の有無

大阪医科薬科大学事件最高裁判決は、前述のとおり、正職員とは異なり、アルバイト職員には賞与を支給しないことは、不合理ではないとしました。

同判決は、①賞与が、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされていること、②正職員は業務の必要により配置転換等を命ぜられることがあること、③賞与の算定基礎となる本給は、年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成っていることを指摘しました。

そして、当該賞与の支給要件や支給内容等に照らせば、㋐賞与は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、㋑大学は正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正職員に対し賞与を支給することとしたものといえるとしました。

上記①、②、③といった事情に照らせば、大学が、正職員にだけ賞与を支払うのは上記㋐、㋑といった理由からだと最高裁判例は考え、前記のとおり「3要素」の差があることを指摘し、アルバイト職員に賞与を給付しないとしても、不合理ではないとしたのです。 上記の①、②、③といった事情は多くの企業に当てはまるものと思われますから、多くの企業においては契約社員に賞与を払わないとしても、不合理ではないとされるのではないでしょうか。

給与の差異の不合理性の有無

この問題について最高裁の判断は示されていませんが、下級審レベルではこれについて判断したものがいくつか存在します。

メトロコマース事件東京地裁判決(平29.3.23)、同東京高裁判決(平31.2.20)、大阪医薬大学事件大阪地裁判決(平30.1.24)、同事件大阪高裁判決(平31.2.15)は不合理性を否定しています。

他方、産業医科大学事件福岡高裁判決(平30.11.29)は、当該契約社員が1年契約を更新し、30年以上勤続していること、無期雇用社員も主任昇格前は当該契約社員と同じ仕事をしていたこと等から、無期雇用社員の主任昇格前の給与を下回る3万円の限度で不合理と判断しました。しかし、メトロコマース事件において、当該契約社員が10年以上勤務し、定年も65歳となっていることから、「長期勤務に対する褒賞としての部分」についても退職金が支給されないのは不合理であるとした東京高裁判決が最高裁で取り消されたことを考えれば、福岡高裁判決は勤続年数の長短だけを重視し、不合理性を判断したとして、妥当な判決とは言えないと考えます。

中小企業の多くが基本給を、年齢または勤続年数によって定められる年齢給または勤続給と、職務遂行能力に応じた等級により定められる職能給で成り立っていることが多いでしょう。また、職能給も経験を経て能力も上がるだろうとの前提で、勤続年数が多ければ能力も上がるとの前提で年齢に応じた昇級がなされているのではないでしょうか。そうすると、大阪医科薬科大学事件の賞与の趣旨について述べた①、②、③がそのまま基本給にも当てはまるため、㋐基本給は、継続的な勤務等に対する功労報償としての性質を有し、㋑会社は正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し、年功賃金的な年齢給(勤続給)及び職能給を支払うことにしたものといえるのではないでしょうか。

そうすると3要素を検討し、そこに差異があれば、正社員の基本給が年齢給と職能給とされ、契約社員の基本給が職務給とされることにより、差があったとしても不合理ではないと判断されるケースが多くなるのではないでしょうか。

《 会社がとるべき措置 》

契約社員に対する説明義務(パ労法14条1項、2項)

パ労法14条は、パートタイム社員、有期契約社員(以下「契約社員」といいます。)に対し、雇い入れ時(1項)、雇用中契約社員から求められた時(2項)、以下の事項を説明しなければならないとされています。

雇い入れ時の説明事項

  • 不合理な待遇の禁止(関連条文として8条。以下同様関連条文を記す。)
  • 通常の労働者と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止(第9条)
  • 賃金制度はどのようなものとなっているか(10条)
  • どのような教育訓練があるか(11条)
  • どの福利厚生施設が利用できるか(12条)
  • 正社員への転換推進措置としてどのようなものがあるか(13条)

従業員から以下の事項の説明を求められたとき

事業主は、契約社員から求められた場合、次の②~⑦に関する事業主の決定に当たって考慮した事項に加え、通常の労働者との間の待遇差の内容及びその理由について説明することが義務付けられます。契約社員から求められたとき以下の事項を説明する必要があります。

  • 通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由
  • 労働条件に関する文書の交付
  • 不合理な待遇の禁止、差別的取扱いの禁止
  • 賃金の決定方法
  • 教育訓練の実施内容
  • 福利厚生施設の利用
  • 通常の労働者への転換を推進するための措置の内容

契約社員から、通常の労働者(正社員)との間の待遇の相違を聞かれた場合、㋐比較対象の通常の労働者との間で待遇の決定基準に違いがあるか、㋑違う場合はどのように違うのか、㋒なぜ違うのか待遇の相違の内容と理由、㋓待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明しなければなりません。比較対象となる「通常の労働者」が正社員中どの従業員としたのかも説明しなければなりません(一定の比較グループを明示すればよく、比較対象とした従業員名を挙げる必要はありません。)

待遇差の理由を検討する際には、不合理な待遇差の禁止(均衡待遇)に関するパート有期法8条の考え方を理解しておくことが有用です。

不利益取扱いの禁止(パ労法14条3項、24条2項)

契約社員が待遇差の内容・理由の説明を求めたことを理由とする解雇その他の不利益取扱いをしてはなりません。
契約社員が前項の援助を求めたことを理由として、当該契約社員に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。

実行確保措置(パ労法18条)

事業主が説明義務に違反した場合、労働局から指導や勧告等を受ける可能性があり、これに従わない場合には企業名の公表されてしまいます。

《 紛争処理の仕組み 》

紛争処理の仕組み

均等待遇または均衡待遇が求められると判断された場合、裁判所は未払い賃金としてその給付を認めるのでしょうか、それとも損害賠償として、その給付を認めるのでしょうか。パ労法8条、9条は、当該要件を満たす場合、均等待遇または均衡待遇をしなくてはならないと定めているわけではなく、均等待遇または均衡処遇に反することを行ってはならないと定めているにすぎません。そのため、裁判所が命ずるのは、いくら払われるべき給与が払われなかったから、不足分を払えということ(債務不履行責任)ではなく、不足したことによる損害額を払えということ(不法行為責任)になります。

同一労働同一賃金に関する紛争については、あっせん、調停、仲裁の3つの紛争処理制度があります。会社に対して損害賠償を求める労働者は、通常、労働基準監督署施設内にある総合労働相談コーナー(労働基準局の上部組織たる労働局の窓口)に相談を申込みます。そうすると担当者の判断で、あっせん、調停、仲裁のいずれかの手続きで紛争が処理されます(通常はあっせんか調停になります)。なお、労働局は国の組織であり、都の組織として東京都総合労働相談情報センターというものがありますが、ここではあっせんだけを行っています。なお労働委員会は労働組合との不当労働行為を取り扱う組織なので、同一労働同一賃金のような個別の労働紛争は取り扱いません。

あっせんは、紛争調整委員会の委員(弁護士、大学教授等の学識経験者)が双方の意見を聞きあっせん案を出すもので、あっせんに応じるか否かは双方の自由で、双方が応じなければ打切りにより終了します。おおよそ1回、2時間程度での短期解決をはかる制度ですので、双方の争いが先鋭的な場合には適しません。

調停は、3人の調停委員(それぞれが公益、使用者、労働者を代表する)が、双方の意見を聞きながら、合意による調停を目指す制度です。通常2、3回開かれ、3か 月以内に終了します。

調停もあっせんも、相手方は出席義務がないため、双方の出席がなければ打ち切りになります。しかし、調停を欠席した場合、その後労働者側から裁判所に労働審判を求められることも多く、その場合、準備期間がわずかしかなく、第1回目の期日で大勢が決まってしまいます。そのため、あっせん、調停で相手方主張が明らかになることで、こちらも労働審判での対応がしやすくなるメリットがあります。

同一労働と同一賃金とは? まとめ

  • 会社の指示に従わない社員にはどう対応する?
    まずは、口頭で注意・指導をし、それでも従わない場合は、書面によって注意・指導をしていきます。その後も改善がみられない場合には、懲戒処分等を検討することになります。
  • 協調性を欠く社員には、まずはどう対応する?
    具体的に問題行動を指摘し、注意・指導を口頭や書面によりしていくことになります。弁明の機会を与えることも大切です。注意・指導を繰り返しても改善が見られない場合は、配置転換なども考え、最終的には解雇等を検討することになります。
  • 能力不足の社員にはどう対応する?
    何度も研修や指導を行なうことにより、社員に改善の機会を与える必要があります。会社として求める水準等を理解してもらいながら、改善を試みるとともに、配置転換等も検討し、それでも能力が不足する場合は、解雇等を検討することになります。
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