人事・労務 - 問題社員対応、解雇・雇止め

問題社員に対する指導問題社員特有の言動と対処

  • 問題社員に対して、「指導しても治らないから問題社員なんだろう。どうしたら解雇できるのかそれを聞きたいんだ。」と言われるかもしれません。
  • しかし、問題社員だからといって、そう簡単には解雇できません。そうであれば、指導して問題性を取り除くことが第一です。そうした指導を尽くしたにも関わらず、改善しなかった場合に初めて解雇できるのです。
  • 最終的に解雇するにしても、①その社員のどういうところが問題なのか、②その問題がどういう言動として実際に現れたか、③その言動が会社にどのような悪影響を及ぼしたか、④その言動を具体的に指摘し、本人に自覚と反省を促すよう、どんな指導をしたか、⑤当該社員は反省したか、⑥当該社員に改善は見られたか、⑦改善しなかったとして解雇の前に、軽い懲戒処分を行ったかを、時系列的に証拠化して初めて、裁判で勝てるのです。

指導ない場合の悪影響

実際問題行動があっても、適切な指導がなされていないというケースは多くあります。特に問題社員の場合、指導をしても、逆にくってかかるということがあり、「腫れ物に触らず」といったことで、指導するにも及び腰になってしまうことがよくあるのです。

しかし、こうした対応は、他のまっとうな社員からは「なんで会社は、放置しておくんだ。」という反感を生み、そうした社員のモチベーション低下を生み、最悪、退職ということにもつながりかねません。

反論の有無

指導し反論がなければ「本人も誤ちを認めた」という事後評価が可能になりますし、反論があってもそれが不合理なものであれば「反省がなかった」「改善の意欲が見られなかった」という事後評価が可能になります。ですから、後々解雇といった場面において、指導があったことは非常に有用なのです。反論の機会を与えるというのは決して悪いことではありません

長期雇用者の場合の注意点

問題なのは、放置が続き、当該社員が長期間勤務した後に、社内で「彼(彼女)は問題だ」として、いきなり指導を始め、改善がなかったとして解雇するというやり方です。

そういう場合、裁判官から「この労働者は勤務して十数年になるのに、なんで今更能力不足なんてことがいわれるのだろうか」という不審感を持たれてしまいます。「鉄は熱いうちに打て」なのです。長期間勤続している場合は「なぜ今なのか」というストーリーが必要になります。

記録の重要性

ただ、いくら指導しても、その事実が記録されていなければ意味はありません。実際、裁判になると当該社員が「注意を受けたことはなかった」というのはまだいい方で、自分はこれだけの功績を上げたなどと、反論してきます。

人事部(小企業では社長)に対する報告書という形で残しておくべきです(メールでも構いません。)。ただ、報告の際、できるだけ5W1Hを明らかにし、第三者が見ても分かる客観的表現である必要があります。当然、その際の本人の反応も重要です。

指導の内容の適切性

ただ、指導はまっとうな指導である必要があります。「指導を繰り返したが、改善しなかった」という場合、指導の内容も問われるのです。他の社員のいる中で罵倒することを繰り返し、改善しなかったからといって、解雇理由とはなりません。却って、パワハラだとの付け入る隙を与えてしまいます。

当該社員の具体的にどの部分が問題で、それが会社にいかなる悪影響を与え、場合によっては今後の課題を示すことが必要になります。問題社員の解雇が有効とされるのは、こうしたまっとうな指導の結果のご褒美とも言えるのです。

モンスター社員の場合の問題点

問題社員の中でもモンスター社員の場合、その上司の心理的負担は大変なものです。上司のそうした心理的負担を軽減する措置も行われる必要があります。当該問題社員が上司に反抗する場合、さらにその上の役職者のフォローが必要です。直属の上司に全責任を押し付けることは好ましくありません

改善可能性

改善可能性の要求される程度の違い

改善善可能性がみられる限り、能力不足を理由とする解雇は認められません。十分な指導がなされたかどうかが問題になるのも「十分な指導もないうちに改善可能性がないとはいえないだろう。」という判断があるからです。十分な指導があったかという意味で、新卒か中途採用かが重要です。

新卒の場合

新卒の場合、まだ企業人としては卵の存在です。完成品ではないのですから、会社の側に企業人として育てる責任があります。「いろいろと指導して試してみたし、我慢して使い続けてきたけど、どうにもモノにならない。」といった企業側の努力が必要になります。仕事の適性を見ることも必要ですし、使う側に使う能力、育てる能力がないのではないかと疑われるようであってはなりません。

中途採用の場合

中途採用の場合、会社は「完成品」として採用する訳ですから、新卒社員とは扱い方が当然違って当然です。ただ、中途採用の場合、入社する社員に要求される水準は様々です。しかし、同業他社からの転職の場合、採用の際、前職での業務内容・経験・商品知識・技能等を判断し、採用を決めますし、採用後の給与もこうした能力的なものを基準に高めに設定されているのが普通です。そのため、指導もし、時間的余裕も与えたが、期待していた能力に程遠いという場合、解雇が認められる可能性は高くなります。

ただ中途採用でも、「職歴不問」として募集していた場合は、会社側にも「育てる」努力が必要です。ただ、企業人としてそれなりの経験を経ているのであれば、企業人一般としてのビジネスマナー等あることが前提となってしまいますから、そういった社会常識的な部分で劣る部分があれば、解雇理由にもなりえます。その場合でも、改善を促す指導は必要ですし、こうした指導に対する社員の反応も重要になります。

軽い懲戒処分の先行

懲戒処分にも、譴責、減給、出勤停止、解雇と、軽いものから重いものまであります。できれば、譴責⇒減給⇒出勤停止と徐々に懲戒処分のレベルを上げ、それでも改善がなかったとして懲戒解雇するのがベストでしょう。能力不足が資質に由来する場合は、懲戒処分をする意味がないとも言えそうですが、能力不足を努力と工夫で補うのが本来の姿ですから、努力と工夫で補うよう指導しても、改善しないといった事情があって初めて解雇理由ありというべきでしょう。

譴責⇒減給⇒出勤停止と次第に程度を上げていくのがベストでしょうが、何回か譴責した後、次回同じようなことがあれば解雇すると予告していたにも関わらず同じことがあったというような場合は、解雇理由となり得る可能性があるでしょう。

配転の検討の必要性

ある程度の規模を有する会社ですと、他の部署に異動して適性を見たことがあるかが問題とされます。ただ、就職後の部署ないし職種を限って中途採用した場合は、配置転換を求められるいわれはありません。また小規模の会社だと、他の部署に異動すること自体無理があったり、他の部署も余剰人員を抱える余裕もないため、解雇理由の補強的要素として配置転換を求められるのは酷というものでしょう。

勝てる事件、勝てない事件

評価ではなく事実を述べなくては勝てない

弁護士がその社員のどういう点が問題なのかを聞くと、協調性がない、勤務態度が不真面目、指導してもまともに受け止めない、仕事にミスが多い等々、聞かされることが多いのですが、そういった主張では裁判に勝てません。裁判では、原告被告は事実を述べ、裁判所がその事実を法的に評価し、法律に当てはめ、判決を下します。上記の主張は、評価であって、事実ではありません。「協調性がない」というのもあくまで評価です。具体的に、他の社員との協調性が必要な中で、当該社員にいかなる行動をし、その行動が会社にどのような悪影響ないし損害を生じたかを主張しなければ、事実を主張したことにはなりません。

「勤務態度が不真面目」というのも評価であって、事実ではありません。当該社員はどういう職責の下、どういう仕事についているが、他の社員も等しくこういう勤務態度であるのに、当該社員だけこのような勤務態度をとっており、それが日常的に繰り返され、そのため会社に対してこのような悪影響を及ぼしたのかを主張しなければ、事実を主張したことにはなりません。

5W1Hの形で、具体的な事実が述べられ、その問題性が具体的な事実として語られる必要があるのです。

ストーリーのない事件は勝てない

よく、訴状で、問題行動をずらっと並べて、これは懲戒事由及び解雇事由に該当する、といった記載をしている例がありますが、これでは勝てません。問題行動が具体的に語られたとしても、単なる事実の羅列では、勝てないのです。

勝つには、それらの事実が、一つのストーリーとして語られる必要があるのです。当該社員にある言動ないしミス等があり→そのためどういう悪影響が出て→上司が当該言動ないしミスを具体的に指摘し、当該社員に反省を促したが→当該社員は、不合理かつ身勝手な弁解を行い、反省の色が見られず→その後、ふたたびこういう言動ないしミスが有り→そのときも上司が注意をした→しばらくは問題もなかったが→今度はこういう形の言動またはミスが有り→周りの社員からも改善を求められ、上司も強く注意し、始末書を書かせたが→その始末書の内容は・・・といった風なストーリーが必要なのです。

裁判所もこうしたストーリーを聞いて初めて、「会社はここまで熱心に指導したのに、改善が見られなかったのだから、解雇もやむを得ない。」と判断してくれるのです。

段階を踏まないと勝てない

横領など会社に直接財産的損害を与える行為があれば、それだけで解雇にすることも可能ですが、問題行動があったからといって、いきなり解雇はできません。何度も指導→譴責処分をし、始末書を書かせる→再度の譴責処分+今度繰り返したら解雇もありうる旨通告→本人と面接し反論の機会を与える→社内で協議し解雇を決定といったような段階を踏むことがないと、なかなか解雇は認められない。

証拠がなければ勝てない

裁判は証拠がなければ、相手にしてもらえません。こちらの主張を、相手が事実として認めてくれればいいのですが、否定された場合には、証拠が必要になります。証言も、何らかの客観的証拠があって、それと結びつくことで初めて意味をもちます。

よく、裁判でも労働審判でも陳述書といって、事件に関連して、具体的に事実を見聞した者が、その見聞した事実を作文形式で書いた書面を証拠として提出しますが、訴状の延長のような扱いしか受けられず、証拠というより、参考資料程度の意味しかありません。

しかし、当該社員の問題行動があった時点で作成された報告書なら証拠になります。解雇すると決まってから作った書類とは違って、証明力があるものとして扱われます。

当該社員の問題行動に対して、取引先からメールでクレームがあれば、それは立派な客観的証拠になります。上司との間のラインのやり取りも証拠になりますが、スマホの廃棄等の事情で、証拠として残っていないことが多く、当時のラインのやりとりを写真にして取っておくといった工夫が必要になります。

解雇を言い渡す際のやり取りを録音しておくのも有益です。相手に承諾を取る必要はありません。相手の承諾なくして録音したものも証拠として扱われますし、強力な証拠となります。

問題社員対応には弁護士のサポートが必要です

問題社員の対応を怠ってしまうと、問題社員との関係はもちろんですが、最大の問題は、周囲の社員のモチベーションを下げ、労働生産性を下げてしまうリスクばかりでなく、最悪の場合、会社に嫌気がさして辞めてしまうという可能性があることです。

多くの経営者は、なんとかしたい、ただ、対応するエネルギーがない、法律的にどういった対応がベストなのかわからない。といった悩みを抱えているのではないでしょうか。

問題社員の対応は、注意指導、配置転換・降格、懲戒処分、退職勧奨、解雇など法律的に適切なプロセスを踏んで対応していかなければなりません。その対応を間違えれば、企業にとって大きなリスクになります。そのため、人事労務問題を熟知した弁護士のサポートが必要なのです。

当事務所では、労働問題に特化した顧問契約をご用意しております。法改正対策はもちろん、労働時間管理やフレックスタイムの導入や、問題社員対応、人材定着のための人事制度構築など、企業に寄り添った顧問弁護士を是非ご活用ください。

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