人事・労務 - 問題社員対応、解雇・雇止め

能力不足・成績不良社員ローパフォーマー社員への法的対処

  • 職務怠慢に対しては、まず、業務能力向上を目指すスタンスでの指導が必要になります。なかなか能力不足を理由に解雇するのは困難ですから、まずは、指導による改善を目指しましょう
  • 指導の経過も書面化して残しておきましょう。そうすることで、第1に過去の経過を検証する過程で問題性をより把握でき、指導にも有益な効果を及ぼしますし、第2に、指導しても改善がなく解雇に至ったという場合、そうした指導の記録が重要な証拠になるからです。指導する際、就業規則のどこに違反するか指摘し、懲戒処分の対象となりうることを告げておくことも将来の裁判に有利に作用します。
  • 目標を設定する場合は、達成不可能な数字を設定し、叱咤することは、指導として適切でなく、逆にパワハラに該当しかねず、将来裁判となった場合、不利に作用します。
  • 人事考査を的確に行う必要があります。甘めの査定は本人のためにも、会社のためにもなりません。
  • 職向懈怠の結果、会社に財産的損害を与えたような場合は、譴責処分も必要です。
  • 職種が限定されていない場合、配置転換を行い、他に適性がないかを見極める必要があります。
  • いきなり解雇する前に、自主退職を促しましょう。相手が退職届けを出すことを承諾したら、すぐに退職手続きに必要な書類を交付し、既成事実化しておきましょう。
  • 解雇通知をする場合は何を解雇理由として主張するかを慎重に検討しましょう。解雇理由を新たに主張して、以前にした解雇処分の有効性を補強することはできません。
  • 就業規則中の解雇事由の中に解雇の根拠となるものがあるか確認しましょう。
  • 解雇する場合、解雇予告手当は払った方がいいでしょう。

能力不足

職務遂行能力に欠けている、当該職務に必要とされる適格性をそもそも欠いているといった社員は、会社が指示した仕事を提供できていないため、債務不履行になります。

成績不良が直ちに債務不履行になるわけではないですが、成績不良の背後には能力不足があり、そのことは債務不履行になります。したがって、会社としては契約違反を理由に解雇が可能なはずですが、労働契約法上、合理性、相当性を欠いた解雇は無効となってしまいます。

適切な指導

指導ない場合の悪影響

実際問題行動があっても、適切な指導がなされていないというケースは多くあります。特に問題社員の場合、指導をしても、逆にくってかかるということがあり、「腫れ物に触らず」といったことで、指導するにも及び腰になってしまうことがよくあるのです。

しかし、こうした対応は、他のまっとうな社員からは「なんで会社は、放置しておくんだ。」という反感を生み、そうした社員のモチベーション低下を生み、最悪、退職ということにもつながりかねません。

指導の内容の適切性

ただ、指導はまっとうな指導である必要があります。「指導を繰り返したが、改善しなかった」という場合、指導の内容も問われるのです。他の社員のいる中で罵倒することを繰り返し、改善しなかったからといって、解雇理由とはなりません。却って、パワハラだとして、損害賠償を求められかねません。当該社員の具体的にどの部分が問題で、それが会社にいかなる悪影響を与え、場合によっては今後の課題を示すことが必要になります。

また、改善するためにどのようなステップを踏み、まず何をめざすべきかを本人の口から言わせることも有用かもしれません。特に問題社員が新卒の場合、上司の指導力が対応のカギと言っても過言ではありません。

後日解雇の有効性が裁判で争われる場合、個々の指導が「相手の成長を促す姿勢で行われたのか」「それとも退職に追い込む目的で行われたのかが、見られます。見られて恥ずかしくない指導をする必要があります。

反論の有無

指導した結果、社員から反論がなければ「本人も誤ちを認めた」という事後評価が可能になります。社員から反論があっても、それが不合理なものであれば「反省がなかった」「改善の意欲が見られなかった」という事後評価が可能になります。

ですから、後々解雇といった場面において、指導があったことは非常に有用なのです。反論の機会を与えるというのは決して悪いことではありません

長期雇用者の場合の注意点

問題なのは、放置が続き、当該社員が長期間勤務した後に、社内で「彼(彼女)は問題だ」として、いきなり指導を始め、改善がなかったとして解雇するというやり方です。

そういう場合、裁判官から「この労働者は勤務して十数年になるのに、なんで今更能力不足なんてことがいわれるのだろうか」という不審感を持たれてしまいます。「鉄は熱いうちに打て」なのです。長期間勤続している場合は「なぜ今なのか」というストーリーが必要になります。

記録の重要性

ただ、いくら指導しても、その事実が記録されていなければ意味はありません。実際、裁判になると当該社員が「注意を受けたことはなかった」というのはまだいい方で、自分はこれだけの功績を上げたなどと、反論してきます。

問題行動があり、それに対して指導したというときは、指導の対象となった行為が何か、どのような指導をしたか、指導に対する反応はどうだったかを、簡単でいいので会社宛の報告書面という形で後に残すようにしてください。5W1Hを明確にすることを心がけてください。

配置転換

適性発見としての配置転換

ある程度の規模を有する会社ですと、他の部署に異動して適性を見たことがあるかが問題とされます。

ただ、就職後の部署ないし職種を限って中途採用した場合は、配置転換を求められるいわれはありません。また小規模の会社だと、他の部署に異動すること自体無理があったり、他の部署も余剰人員を抱える余裕もないため、解雇理由の補強的要素として配置転換を求められるのは酷というものでしょう。

懲戒処分の先行

能力不足も、その結果会社に損害を与えれば、懲戒処分の対象にもなってきます。その場合、いきなり解雇するのではなく、譴責、減給、出勤停止、解雇と、軽いものから重いものまであります。できれば、譴責⇒減給⇒出勤停止と徐々に懲戒処分のレベルを上げ、それでも改善がなかったとして懲戒解雇するのがベストでしょう。

退職勧奨

能力が不足していることを本人が自覚しているのであれば、まずは、退職勧奨を勧めるべきでしょう。その場合も、これまでの指導の積み重ねが生きてきます。

そこにいたるまで、何回か面談を経て、本人の能力不足を指摘し、改善を促し、さらには改善が見られない場合、最悪解雇を検討せざるを得ないことを伝えてきていれば、その努力が生かされることになります。

解雇は最後の手段です。いざ解雇しても、それを争われた場合、解雇が無効とされる可能性もあります。本人が合意のうえ退職したとなれば、後日争いようがありません。

本人は合意の上、退職したとしても、後日、親、配偶者、交際相手といった外野が入ってきて、退職を強要されたとか言ってくることがありますので、退職勧奨する場合は録音していた方が良いでしょう。最近は社員の方も録音していることが多いため、これに対抗する必要もあります。

退職届

退職勧奨する場合、退職届も用意して、その場に臨むことが多いと思いますが、その場合、退職の効力を発生させるためには、社員側からの退職の意思表示があるだけでなく、会社側がこれを受領することが必要です。退職の意思表示を受領できるのは社長であり、社長から委任を受ければ役員等でも退職の意思表示を受領することは可能です。

退職の意思表示がなされても、あとで撤回される可能性もあるため、その前に効力を確定させる必要があります。

人事考査

さらに人事考査を的確に行う必要があります。賞与査定の際、ほぼ全員が中間のC評価という会社では、こうした問題社員もCないしD評価程度で、当該本人の能力向上のモチベーションになりえません。優秀な社員のモチベーションも下がってしまいます。

後日、裁判になった場合、相手方の弁護士が、そうした人事評価を理由に、能力不足はなかったと主張してくることにもなります。

解雇

能力不足・成績不良は解雇理由になる

指導をいくらしても治らず、周りの社員に業務のしわ寄せが出て、他の社員からも不満が出るといったことが続くと、「やっぱり辞めてもらおうか」ということにならざるをえません。

厚労省作成のモデル就業規則でも、「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。」「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。」が解雇事由として規定されており、解雇が許されない訳ではありません。

解雇の有効要件

しかし、労働契約法には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」あるとおり、解雇のハードルは高いのです。解雇が有効とされるためには、以下の事実を主張立証する必要があります。

  • 勤務成績又は業務能率が著しく不良。
  • 当該社員に対する指導を十分に行った。
  • 指導後も改善がなく、今後改善される見込みもない。
  • 社内で受け入れ先が見当たらない。

そして、裁判で解雇が認められるには、裁判官をして「会社もここまで我慢して、指導したのに、なおこの程度の改善状況なら解雇されても仕方ない。」と思わせることが必要です。

雇ってしまった以上とことん面倒を見る、それでもどうにもならない、我慢の限界なので辞めて下さい、というところまで行かないと解雇はできません。

勤務成績または業務効率が著しく不良

企業に重大な損害を与えたり、企業経営や業務運営に重大な影響や支障を及ぼしたりした場合に初めて解雇に合理性が認められるとされています。

営業マンであれば勤務成績が数字化されますが、事務職などの場合は、勤務成績が直ちに数字化されるとは限りません。成績の良い社員には難しい仕事を分担させ、成績の悪い社員が簡単な仕事を分担させるといった場合、処理件数だけを比べても意味がありません。

経理のようにはっきりミスが現れる仕事があれば、ミスがはっきり形に表れない場合もあります。例えば顧客に対する言動が不適切という場合、その不適切な言動を形に残す必要があります。ただ、人間はロボットではありませんから、勤務成績または業務効率の程度は、個人差があります。ですから、解雇するには、著しく不良である必要があります。

適切な指導が前提

適切な指導がなければ、改善の可能性を見極めることはできません。適切な指導をしても、なおかつ改善しないという事実があって、初めて改善の見込みがないと判断されます。ですから、指導した際の当該社員が反抗的かどうか、反省はあったかどうかを記録しておく必要があります。

ただ、本人がいかに素直に指導に従い、反省したとしても、改善がなければ、改善の見込みなしとせざるを得ないでしょう。

改善の可能性がみられる限り、能力不足を理由とする解雇は認められません。十分な指導がなされたかどうかが問題になるのも「十分な指導もないうちに改善可能性がないとはいえないだろう。」という判断があるからです。

新卒の場合

新卒の場合、まだ企業人としては卵の存在です。完成品ではないのですから、会社の側に企業人として育てる責任があります。「いろいろと指導して試してみたし、我慢して使い続けてきたけど、どうにもモノにならない。」といった企業側の努力が必要になります。仕事の適性を見ることも必要ですし、使う側に使う能力、育てる能力がないのではないかと疑われるようであってはなりません。

中途採用の場合

中途採用の場合、会社は「完成品」として採用する訳ですから、新卒社員とは扱い方が当然違って当然です。

同業他社からの転職の場合、採用の際、前職での業務内容・経験・商品知識・技能等を判断し、採用を決めますし、採用後の給与もこうした能力的なものを基準に高めに設定されているのが普通です。

そうした場合、繰り返し指導をしたが改善しなかったという点はあまり重要ではなく、採用の際必要とされる能力がどのようなものであるかをどの程度具体的に説明したか、当該会社でどのようなポジションに置くことが予定されていたか、そのポジションを果たすためにどの程度な能力が要求されていたか、その要求水準からどの程度離れていたか、就職後、こちらの要望をきちんと伝えたり、問題点を指摘し、改善の機会を与えたりしたかといったことの方が重要です。

ただ中途採用でも、「経験不問」として募集していた場合は、会社側にも「育てる」努力が必要です。ただ、企業人としてそれなりの経験を経ているのであれば、企業人一般としてのビジネスマナー等あることが前提となってしまいますから、そういった社会常識的な部分で劣る部分があれば、解雇理由にもなりえます。その場合でも、改善を促す指導は必要ですし、こうした指導に対する社員の反応も重要になります。

就業規則のチェック

能力不足を理由に解雇するとしたら、通常は普通解雇になると思いますので、以下普通解雇に絞って説明します。厚労省のモデル就業規則では、普通解雇の要件として以下の二つを挙げています。

  • 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
  • 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。

こういった規定が就業規則にあるかどうか確認ください。もしこういった規定がなければ、解雇事由の一番後ろに「その他前各号に準ずる事由があったとき。」といった包括的な解雇事由が挙げられていると思いますので、それによることになります。但し、この包括的な条項も万能ではなく、他の解雇事由のバランスからしてその理由では解雇は認められないと判断されることもありますのでご注意ください。

就業規則を労働者に交付することまでは必要ありませんが、就業規則が周知されていないと、効力を持ちえません。ただ、就業規則を社員が閲覧可能な状態になっていれば、周知性はあるものとされます。

訴訟で勝つためのポイント

解雇理由は、抽象的なものでは足りず、5W1Hによる具体的な事実によって示される必要があります。また、単にこういうことがあった、こういうことがあったと事実を羅列して、よって本人の能力不足は明らかであるといった主張では、裁判では勝てません。

裁判では、業務上こういった能力が必要であるが、こういう事実があり能力不足が判明した、そのことによりこのような悪影響があった、本人に適切な指導をした、しかし、またこういった事実が発生した、従前の指導も踏まえこういった指導をした、しかし・・・といった、社員のどの行為が、どういう点で問題があり、どういう悪影響があり、どう指導し、その結果どうなったかということを意識的に時系列で語る必要があるのです。

ただ、そうした主張をきちんと行うことができれば、一つ一つの出来事は些細で、悪質性もなく、影響も軽微であっても、勝機が見えてきます。

問題社員対応には弁護士のサポートが必要です

問題社員の対応を怠ってしまうと、問題社員との関係はもちろんですが、最大の問題は、周囲の社員のモチベーションを下げ、労働生産性を下げてしまうリスクばかりでなく、最悪の場合、会社に嫌気がさして辞めてしまうという可能性があることです。

多くの経営者は、なんとかしたい、ただ、対応するエネルギーがない、法律的にどういった対応がベストなのかわからない。といった悩みを抱えているのではないでしょうか。

問題社員の対応は、注意指導、配置転換・降格、懲戒処分、退職勧奨、解雇など法律的に適切なプロセスを踏んで対応していかなければなりません。その対応を間違えれば、企業にとって大きなリスクになります。そのため、人事労務問題を熟知した弁護士のサポートが必要なのです。

当事務所では、労働問題に特化した顧問契約をご用意しております。法改正対策はもちろん、労働時間管理やフレックスタイムの導入や、問題社員対応、人材定着のための人事制度構築など、企業に寄り添った顧問弁護士を是非ご活用ください。

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