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内定取り消しによる対処法内定を取り消す場合のリスク対策

内定通知を送った時点で雇用契約が成立しています。そのため、誓約書記載の内定取消事由に該当する事実があったからといって、直ちに内定取消が認められる訳ではありません

濫用的解雇を無効とする労働契約法16条に従い、内定取消が認められるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られ」ます。

誓約書記載事項に記載ない事項であっても、解雇事由に記載があり、濫用にあたるものでなければ、それを理由に内定を取消すことは可能です。

しかし、記載ある事項については、記載ない事項より、それを理由とする内定取消は認められやすいため、合理的な範囲で広範に記載すること、包括的な規定を設けることをお勧めします。

経歴詐称を理由に、内定を取消すことは可能ですが、経歴詐称があるからといって、当然に内定取り消しが認められる訳ではありません。

内定取消を決めたのであれば、すぐに取消通知を出すべきです。通知が遅れた分だけ、他社への就職の機会を奪うことになります。

会社側の理由で内定取消をする場合、取消要件に該当するかどうか微妙な場合は、内定者本人と会って、内定者の理解を得られるよう努力する必要があります。

内定とは

募集から入社式までの手順

新卒採用では、①卒業予定者向けに求人募集、②これに対する応募、③採用試験の実施、④採用内定通知書の送付、⑤労働者からの誓約書・身元保証書の提出、⑥健康診断の実施、⑦入社式と辞令の交付といった手順が一般的に取られています。

内定の法的性質

通常の契約は、契約書が作成されるため、契約の成立時期が確かですが、上記の新卒採用手続の中では、契約書が作られないため、どの時点をもって雇用契約が成立するかが問題となります。

会社からの募集に基づき、新卒予定者が応募したことが雇用契約の申込みにあたり、会社が採用内定通知を送ったことが、申込みに対する承諾になり、その時点で雇用契約が成立します。

もっとも、新卒予定者は誓約書の提出を求められ、卒業したら必ず入社することと、一定の事由が発生したら内定を取り消されても異議がない旨を誓約させられます。このため、内定は、始期・解約留保権付の雇用契約であるとされています。内定取消事由としては以下のものが考えられます。

  • 経歴を詐称したとき
  • 来年3月に卒業できなかったとき
  • 健康状態が勤務に耐えないとき
  • 刑事事件で起訴されたとき
  • 品位を著しく害する事由を行ったとき
  • 経済情勢の急変等の事由で業績不振となり人員削減の必要を生じたとき
  • その他勤務に不適当と認められたとき

解雇事由に相当する事実があれば、誓約書に記載ない場合でも、内定取り消しは可能です。

ただ、誓約書に記載があれば、相当性が補強されるため、具体的に列挙する事項も、合理的な範囲で幅広く記載したほうが良いでしょう。「経済情勢の急変等の事由で業績不信となり人員削減の必要を生じたとき」の記載がない誓約書が多いですが、これも入れておいたほう良いでしょう。取消事由の最後に「その他勤務に不適当と認められたとき」という包括的な事由をいれておくべきことは当然です。

内定取り消し

会社側が、入社式・辞令交付の前に、採用内定を取り消すことがありますが、これは契約当時留保していた解約権を行使するものです。

内定の取消事由は、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる。」というのが最高裁判例です(大日本印刷事件・最高裁昭54.7.20)。

なお、この判決は、会社が「内定者がグルーミー(陰気)な印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかつた。」という判断のもと内定を取消したという事案についてのものですが、「グルーミーな印象であることは当初から分かっていたことであるから、その段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができた」として、会社のした内定取消は解約権の濫用であるとしました。

採用内定取り消しは労働契約の解除に相当し、解雇の場合と同様、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります。

その他、裁判例として次のものがありますので、ご参考ください。

  • 起訴猶予処分を受ける程度の違法な行為に積極的にかかわった労働者に対する適格性欠如を理由とする内定取消を適法とした例(電電公社近畿電話局事件・最高裁昭55.5.30)。
  • 応募書類では在日朝鮮人であることを秘匿し、後にそのことが判明して行った内定取消について、提出書類の虚偽記入は、その内容・程度が重大で信義に欠くものでなければ内定取消は認められないとして、内定取消を無効とした例(日立製作所事件・横浜地裁昭49.6.19)

経歴詐称

経歴詐称を理由に内定を取り消しうるのは、「重要な詐称」である場合に限られます。

日本鋼管鶴見造船所事件(東京高裁昭56.11.25)は、高卒と称して造船所の工員として入社し、勤務を開始したものの、東大休学中と発覚したため解雇された事案につき「重要な経歴」とは、当該いつわられた経歴につき通常の使用者が正しい認識を有していたならば、当該求職者につき労働契約を締結しなかつたであろうところの経歴を意味すると解すべきであり、又複数の経歴事項にいつわりのあつた場合には、その一つ一つを取ってみれば採否を左右する程重要ではないが、その全部を総合した場合は不採用は避けられないという場合もありうることはもちろんで、このような場合は、右いつわられた経歴事項を総合して重要な経歴をいつわつたとの評価が与えられることとなる。

本件の場合、前認定の控訴人の経歴とくに本人の学歴、父の職業、兄の職業、弟の学歴等に関する詐称は、これを総合的に見た場合、通常の使用者であつたならば、控訴人が単純作業に堪えるかどうか、比較的低学歴者による現場の指揮統制が適切に行われるかどうか等に疑念を抱き、これをもつて特に単純作業のみに従事する労働者としては不採用の理由とするであろう程度のものと考えられるので、重要な経歴詐称といわざるをえない。」と判示しています。

当時は、学生運動が盛んで、肉体労働者になって労働運動に身を投じようとする例が多くあり、この事案もそうした時代背景あってのものです。

高卒を大卒と偽った場合、そのことが業務に影響があるか、実際同僚の社員は大卒しかいないのか、入社後どのくらいの時間が経っているか等の事情を考慮して、濫用となるか否かを判断することになります。

内定後入社までの間に刑事犯罪を行った場合

解雇事案の裁判例ですと、住居侵入罪で罰金刑になったという事案で、私生活での犯罪であり、解雇は重すぎるとして、解雇が無効とされた事案があります。既に勤務を開始し、業務上問題なく来ていた社員と、内定者とでは、状況が違うため、違う結論になることもありえると思われます。

逮捕されても、判決が出るまでは無罪推定がありますので、直ちに内定取り消しをすることはできませんが、本人が自白している場合は、内定取消をすることもありえます。

刑事事件では、不起訴になったとしても、その態様自体が品位を害するもので、会社の信用を傷つけかねない場合もあり、その場合は内定取消もありえます。

内定取消の手続き

内定取消を決めた際は、書面で、内定者に速やかに通知すべきです。

内定後刑事事件を起こし起訴されたような内定者に責任がある場合はともかく、経済情勢の急変等により、内定を取り消したというような事案では、内定者と直接会って、資料等を示しながら、内定者の理解を得る作業が不可欠です。

経歴詐称も、原因を作ったのは内定者の側ですが、経歴詐称の全てが解雇理由になる訳でもないのと同様、内定取消の場合も取消の有効性について争われる要素も存在します(勤務後発覚した場合よりは要件は緩やかになりますが)。このような場合も、面接して、理解を得るべきでしょう。

解雇の場合、後日紛争が生じないよう、自己都合退職の形をとるべきであるのと同様、内定取消についても、事案によっては、合意書を作って後顧の憂いを断った方がいい場合があります。解雇の場合と同様、金銭補償することも場合によっては必要となります。

合意書を作った場合は、本書面に記載ある外は、何らの債権債務のないことを確認すると言った清算条項のほか、本合意に至る経緯、本合意の内容について第三者に口外しないといった口外禁止条項もつけてください。

ヘッドハンティングによる中途入社における内定取消

ヘッドハンティングによる採用の場合にも内定通知が活用されています。ヘッドハンティングの場合、内定者には、現在の勤務先を退社して貰う必要があるため、内定という手段が取られています。

インフォミックス事件判決は(東京地裁平9.10.31)、ヘッドハンティングにより応募、内定通知を発した後、米本社から事業縮小の通知があり、当初の配属を予定されていた部署が廃止となり、内定取消をした事案であり、以下の事情が存在しました。

会社から入社予定日の2週間前に、配属先の部署が廃止になり、採用できないかもしれないとの連絡があった。内定者が会社を訪ねたところ、会社は①基本給3か月分の補償による入社辞退(後に6ヶ月分に増額)、②再就職を図るため試用期間(3か月)在籍し、期間満了後に退職、③当初予定あったマネージャーではなくSEとして働くという3つの条件を提示して事態の円満解決を図ろうとした。しかし、本人は10年勤続したIBMを既に退社し、入社予定の2週間前という時期での内定取消に強く反発し、「入社辞退の場合には基本給の24か月分の補償を要求し、右要求が受け入れられない場合には弁護士を立てること、入社するのであれば試用期間を放棄することを申し入れた。本人は会社で2回めの交渉をしたが、会社は内定者に会社に入社するよう促し、もし応じられないなら6ヶ月分の給与を補償すると申出た。その後、弁護士を同伴しての3度目の会社の面談では、会社は「会社の方針が変わり、雇用はできなくなった」として、内定取消を言い渡した。

この裁判で、会社は、①整理解雇の4要素を充たしていること、②内定段階で雇用契約が成立した以上、会社は内定者に対して人事権を行使しうる以上、SE職への職種変更を命じることができ、それを断った内定者を解雇できると主張しました。

裁判所は整理解雇4要件のうち、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性の要件を満たしているが、④手続の妥当性は満たしていないとし、内定取消は無効としました。内定者が、①スカウトされて入社を決めたこと、②既に勤務先を退職し後がないこと、③勤務開始予定日のわずか2週間前にSEへの職種変更を持ち出されたことなどから、これに反発するのは当然で、内定者の反発の様子から、合意の見込みなしとして、3回目の面接で協議を打ち切り、内定を取り消したのは手続きの妥当性を欠くと判断したのです。

整理解雇の要件に関する事案ですが、上記判決の判断は解雇要件の「社会通念上相当である」とも通じるものがあります。内定取消にあたっては、誠実な態度で、内定者の説得に努める必要があります。

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