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懲戒解雇・普通解雇による対処法解雇が有効になるための条件
- 解雇には普通解雇と懲戒解雇があります。懲戒解雇はハードルが高いため、懲戒解雇をする場合にも、予備的に普通解雇をしておくべきでしょう。
- ただ、どういったことが解雇事由、懲戒事由になるのか、就業規則で定めておく必要があります。就業規則に書かれていないことを理由に懲戒ないし解雇はできないため、規定は網羅的にし、かつ、包括的規定を設けておくべきです。なお、就業規則が周知されていないと、就業規則は効力を認められません。
- 解雇するときに解雇理由を明らかにする必要がありますが、後で、あとで解雇理由を付け足すことはできません。
- 懲戒も解雇も、合理性及び社会的相当性がなければ、有効なものとはなりえません。他にも、一事不再理の原則、不遡及の原則、一事不再理の原則、適正手続の履行といった、刑事裁判と同様のルールが適用されます。
- 解雇は最後の手段であり、解雇に至るまで、対象社員を十分指導・教育し、解雇を回避すべく、他の部署に配転したり、より軽い処分を行い本人の反省を促したかが問われます。もっとも横領行為などがあれば、一発退場が認められることも十分あるでしょう。
普通解雇と懲戒解雇
解雇には懲戒解雇と普通解雇があります。就業規則上、懲戒解雇の場合は退職金を払わないと定められていることが多く、そこが両者の効果の大きな違いと言えます(ただ、それでも裁判になると3割くらいは支払うように命ずる判決が出るのが普通です)。
懲戒解雇の方がハードルが高いため、懲戒解雇事由があるとともに、普通解雇事由がある場合は、念のため、懲戒解雇のほか、予備的に普通解雇もしておくべきです。
解雇と就業規則
懲戒解雇の場合、就業規則上に、懲戒処分として解雇をなしうること、いかなる場合に懲戒処分となるかが規定されていなければなりません。就業規則に記載のない懲戒事由で懲戒処分はなしえません。
また、普通解雇は、就業規則上規定がなくてもできますが、就業規則の必要的記載事項として「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」が掲げられ、就業規則を作る以上は、解雇事由を定めなければいけないことになっています。そして、解雇事由として規定ある以外の事由で解雇することはできません。
そのため、懲戒事由及び解雇事由の記載はなるべく網羅的にするのがよく、さらに、解雇事由を列挙した最後に「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。」といった包括的な事由を置かなければなりません。
就業規則の周知性
また、就業規則は従業員が見ようと思えば見ることができる状態(「周知性」といいます)にある必要があります。周知性がないと、それを理由に解雇が無効とされてしまいます。ただ、就業規則を各人に交付する必要はなく、就業規則を社内のどこかに設置し、設置場所を従業員に公示するやり方でも周知性は満たされます。
社長室や役員の席に置き、希望する旨申し出たものに見せるようにしている会社がありますが、裁判で争われた場合、それでは周知性を満たしていないとされる可能性があります。
解雇理由の後出し主張は認められない
解雇事由ごとに解雇の有効性は判断されます。解雇理由となるA事実とB事実があったのに、うちA事実しか認識していなかったためA事実を理由に解雇したという場合、その後B事実の存在を知り、B事実も解雇理由に加えることは認められません。そのため、B事実を理由に新たに解雇処分をしなければならないのです。
もっとも、解雇当時、解雇理由となるC事実とD事実があり、両事実とも知ってはいたかが、実質的には両事実が、同一のもの、同種のもの、あるいは密接に関連するものだったため、当初C事実を理由に解雇し、その後の経過の中でD事実を加えて主張することは可能とされています。
解雇の有効要件
解雇の効力について、労働契約法15条及び16条は、普通解雇、懲戒解雇の何れを行うについても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とすると規定しています。労働契約法が制定される前から、「解雇権濫用の法理」として、同じ内容の最高裁判例があり、これを明文化したのが上記の条文です。
しかも、裁判実務上、解雇をした会社の方が、解雇に合理的な理由があることを証明しなければならないとしているため、会社の解雇についてのハードルはかなり高いものがあります。
なお、期間を定めて雇用された契約社員は、労働契約法上、「やむを得ない事由」がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができないと定められています。この「やむを得ない事由」とは、解雇のために必要な上記の「合理的な理由」よりさらに厳格なものと解されています。「このやむを得ない事由」も、会社側が証明しなければならないこととされています。
懲戒解雇における権利濫用の判断
懲戒解雇が有効とされるには、まず、社員の問題行為が就業規則上の懲戒事由に該当することはもちろんのこと、「客観的に合理的な理由」があると認められなければなりません。合理的かどうかは、当該行為の性質・態様等に照らして該当性が判断されます。
次に、当該懲戒処分についての社会的相当性が判断されます。労働者の問題行為が懲戒事由に該当するとしても、懲戒処分をするに際しては、当該問題行為の性質・態様や当該労働者に関する勤務歴などの情状を適切に酌量することが求められており、処分内容が重すぎる場合には社会通念上相当なものとは認められず、懲戒処分が無効と判断されます。多くの判決で、懲戒解雇処分について、懲戒事由該当性が肯定されながらも、社会的相当性の観点から懲戒権の濫用と判断されています。
懲戒解雇の時期
懲戒事由があっても、そのまま懲戒処分することなく、長期間経過した場合は、もはやその事由を理由として懲戒処分することは許されません。ある最高裁判決(ネスレ日本事件)は、懲戒事由に該当する上司への暴行という事実があったものの、暴行事件後7年以上経過してなされた諭旨退職処分につき、社会通念上相当なものとはいえないとして、処分を無効と判断しました。
就業規則で定められ、また裁判上よく問題になる懲戒事由として、(1)経歴詐称、(2)職務怠慢、(3)業務命令違反、(4)職場規律違反・職務上の非違行為、(5)兼業・二重就職、(6)私生活上の非行、(7)会社批判・内部告発等がありますが、それぞれ、職務の性質、社員の会社上の立場、問題行為の悪質性、本人の対応・反省の存在、企業秩序・企業利益に対する損害の程度等を総合的に考慮して、解雇という処分が重すぎないか検討する必要があります。
刑事処分上の原則の適用
なお、懲戒は会社という私的な社会の中のものですが、私的制裁として、刑事罰との類似性を持つともいえます。そのため、刑事裁判における二重処罰の禁止、不遡及の原則、一事不再理の原則、適正手続きの履行といった刑事処分上の原則が妥当するとされています。
二重処罰の禁止
一つの行為で2回処罰してはいけない。
不遡及の原則
問題行動当時は就業規則がないか、解雇事由に挙げられていなかったのに、後から就業規則を定め、解雇事由を追加することで処分することは許されない。
一事不再理の原則
一度不問としたことを、後日判断をやりなおし、改めて処分をすることは許されない。
適正手続きの履行
弁解を聞くこともなしに処分してはならない(明確な証拠があり、かつ、非違行為の重大性が認められれば別です。)。
普通解雇
普通解雇における権利濫用の判断
就業規則に普通解雇の規定があり、当該社員が解雇事由に該当する行為を行った場合、このことを理由に普通解雇したとしても、解雇するにつき「客観的に合理的な理由」があると認められなければなりません。
一般に「客観的に合理的な理由」として以下のものがあります。
- 社員が労務を提供できなくなった場合
- 労働能力や適格性が欠けている場合
- 義務違反・規律違反があった場合
- 事業の不振など経営上やむを得ない必要がある場合(整理解雇)
- ユニオンショップ協定ある場合に、組合から除名ないし脱退となった場合
(1)(2)(3)は社員側に原因がありますが、特に(1)と(2)については、解雇理由該当性を抑制的に判断する傾向があります。(1)については、休職規定があればその活用を求められ、復帰のための助力が求められ、それがない場合に無効となりえます。また(2)については、他の職務への配転や降格を考慮したかどうかを考慮した裁判例もあります。
解雇をなすについての社会的相当性についても、解雇原因の重大性、解雇原因発生に至る経緯、本人の従前の勤務成績、解雇原因についての本人の対応、本人の反省の有無、他の事例との比較、他にとりうべき手段の存否や内容が判断要素とされます。
問題社員対応には弁護士のサポートが必要です
問題社員の対応を怠ってしまうと、問題社員との関係はもちろんですが、最大の問題は、周囲の社員のモチベーションを下げ、労働生産性を下げてしまうリスクばかりでなく、最悪の場合、会社に嫌気がさして辞めてしまうという可能性があることです。
多くの経営者は、なんとかしたい、ただ、対応するエネルギーがない、法律的にどういった対応がベストなのかわからない。といった悩みを抱えているのではないでしょうか。
問題社員の対応は、注意指導、配置転換・降格、懲戒処分、退職勧奨、解雇など法律的に適切なプロセスを踏んで対応していかなければなりません。その対応を間違えれば、企業にとって大きなリスクになります。そのため、人事労務問題を熟知した弁護士のサポートが必要なのです。
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