人事・労務 - 問題社員対応、解雇・雇止め

従業員が会社のお金を横領した刑事事件を犯した従業員の懲戒解雇

  • 横領行為があれば、比較的少額でも、懲戒解雇・普通解雇は可能
  • 横領の事実があれば、労基署から「除外認定」を受け、解雇予告手当も払わないで済むが、当該社員が横領の事実を否認し、横領の事実を示す明確な証拠がないとして、除外認定はおりないこともある。
  • 刑事告訴をしてしまうと、逆に腹をくくって払ってこない可能性もあります。
  • 退職金不支給の規定ばかりでなく、退職金支給後不正が発覚した場合に備え、退職金を取り戻す規定も、就業規則で定めましょう。

懲戒解雇処分・普通解雇

懲戒処分にしても普通解雇にしても、就業規則に「故意によって会社に財産上の損害を及ぼしたこと」といったような規定が懲戒事由、解雇事由に存在するかどうかを見る必要があります。

ただ、こうしたピッタリ当てはまる規定がなくても、就業規則には、大抵、様々な問題行為が懲戒事由ないし解雇事由として網羅的に書かれているため、横領行為に適用可能な条項が見つかることが殆どですし、そうでなくても「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。」といった包括的規定があるため、最後にはこの規定で懲戒解雇、普通解雇にすることが可能です。

労働契約法16条は、合理性・相当性がない場合になされた解雇は無効としていますが、横領行為があれば、懲戒解雇・普通解雇は当然認められます。

金額が、余りに少額な場合はともかく、10万円ないし数十万円程度でも、犯罪行為に当たるうえ、会社に対する重大な背信行為と言えますから、懲戒解雇の対象となります。また、経理係、支店長など、職務上お金を扱う地位にあった場合は、会社の信頼を裏切ること甚だしく、より少額でも懲戒解雇ないし普通解雇が認められる可能性があります。

解雇予告手当も不要が原則(但し相手が否認しなければ)

普通解雇にしても、懲戒解雇にしても、原則、解雇日の30日前に解雇を予告するか、予告をせずに即日解雇する場合は30日分の平均賃金を払わなければなりません。この30日分の平均賃金を解雇予告手当と言います。

ただ、法律は、例外的に「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」又は「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」といった除外事由に該当する場合は、その事由について労働基準監督署長の認定を受けることで、解雇予告又は解雇予告手当の支払いをすることなく解雇することができます

この労働基準監督署長の認定を「除外認定」と呼びますが、横領行為を理由とする解雇は、間違いなく「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」にあたるため、除外認定も認められます。

ただ、除外認定は労働者から事情を聴取した上で出されるため、相手が否認した場合、除外認定は認められない可能性があります。

刑事告訴

横領行為は、それを行った社員がつく職務内容によって、成立する犯罪名が違います

例えばレジ係がレジのお金を着服するのは窃盗となります。しかし、経理係のように資金の出し入れをし、帳簿をつける等して、現金を管理する立場にある者が、会社の金銭を着服すれば業務上横領になります。会社の現金の使途につき決済権を持った人間が着服すれば背任罪が成立し、営業社員が取引先に架空取引を持ちかけキックバックを貰う場合は詐欺罪が成立します。

どの罪名に当たろうと、犯罪に変わりはないのですから、刑事告訴することは可能です。ただ、告訴してもお金が返ってくるとは限らないため、普通は「告訴も考えているが、もし、横領したお金を弁償するのであれば、告訴はしない。」として、示談交渉を持ちかけるのが普通です。

ただ、経理係が何年にも渡って横領したというような場合、横領金額がはっきりしないのが普通です。そうした場合に、根拠なく、巨額を横領したとして、法外な金額を支払わせるため、刑事告訴を材料に請求する行為は、恐喝罪に当たる可能性があります。

相手が損害を認めた場合は、示談書を公証役場で公正証書として作成すれば、公正証書によって強制執行をすることが可能になるので、支払いをより確なものにすることができます。

こうした示談の場で、相手に書面を直接書かせても良いのですが、その場合、相手方が「刑事告訴すると言われて、見に覚えのない金額まで書かされた」と主張される可能性があるため、そのやり取りをテープで録音しておいたほうが良いでしょう。

退職金の不支給

退職金制度を定める会社の就業規則の殆どが、懲戒解雇した社員に対して退職金を支給しない旨を規定しています。しかし、退職金には「給料の後払い」的な性質と、「功労報償的」な性質が、ともに存在します。そうして、給料の後払い的な性質がある以上、退職金の全額カットは認めず、7割をカットし3割の支給を認めるといった裁判例がほとんどです。横領行為を理由として懲戒解雇した場合の退職金不支給の有効性が争われた裁判として次の2つをあげますので、ご参照ください。

札幌地裁平成20年5月19日判決(判例秘書登載)

原告は、勤続35年、釧路営業所長であり、出張旅費の最終決済権は原告が有していたところ、15回合計22万6500円の出張旅費の着服があり、これを理由に懲戒解雇され、退職金は支給されないこととされた。その後の調査で、家族居住地での宿泊料24泊分合計22万8000円の着服があったことも発覚した。原告は懲戒解雇となった者には退職金を支給しないとの被告の就業規則の規定は、被告における退職手当制度に功労報償的性質がないので無効であると主張して、被告に対し、退職金の支払を求めた事案。

本件懲戒解雇事由である出張旅費の着服金額は高額とはいえず、原告は勤続35年であり、本件退職手当制度における退職金は賃金の後払的性質が相当強いことを考慮すると、原告の勤労の功をすべて抹消してしまうほどの重大な不信行為があるとまではいえないし、原告に対して退職手当を不支給とする条項を適用することは合理性に欠けるとし、退職金額1792万円のところ、その3割相当537万7200円の支給を認めた。

退職金はポイント制を採用。会社は、会社都合か自己都合かで退職金額が違う等会社への功績も反映させていること、功労著しい場合は増額されることもあることを理由に功労報償的性格が強いと主張したが、この点はあまり評価されていない。

東京地判平成30年5月30日(判例秘書登載)

社宅制度、単身赴任の帰宅手当の要件を満たしていないのに、この事実を秘し、社宅を利用、帰宅手当の受給を受け、493万1360円を不当利得していた(反訴請求認容額)ことを理由として解雇され、退職金を不支給とされた従業員が解雇無効、退職金の支給を求めた事案。

企業年金による退職一時金のほか、会社がこれに加算して支払うこととされている315万0615円については、その6割である189万0369円を不支給とする限度でのみ合理性を有する(同規定も同限度で有効である)と解するのが相当である。

問題社員対応には弁護士のサポートが必要です

問題社員の対応を怠ってしまうと、問題社員との関係はもちろんですが、最大の問題は、周囲の社員のモチベーションを下げ、労働生産性を下げてしまうリスクばかりでなく、最悪の場合、会社に嫌気がさして辞めてしまうという可能性があることです。

多くの経営者は、なんとかしたい、ただ、対応するエネルギーがない、法律的にどういった対応がベストなのかわからない。といった悩みを抱えているのではないでしょうか。

問題社員の対応は、注意指導、配置転換・降格、懲戒処分、退職勧奨、解雇など法律的に適切なプロセスを踏んで対応していかなければなりません。その対応を間違えれば、企業にとって大きなリスクになります。そのため、人事労務問題を熟知した弁護士のサポートが必要なのです。

当事務所では、労働問題に特化した顧問契約をご用意しております。法改正対策はもちろん、労働時間管理やフレックスタイムの導入や、問題社員対応、人材定着のための人事制度構築など、企業に寄り添った顧問弁護士を是非ご活用ください。

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