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懲戒解雇の場合における退職金の不支給労働紛争にならないための適切な対処法

  • 就業規則に懲戒解雇した場合には退職金を支給しない旨を規定しておく必要があります。さらに退職金支給後に不正が発覚した場合に備え、いったん払った退職金を取り戻す規定も就業規則の中に置くべきでしょう。
  • 退職金を支払いたくないとのことで、懲戒解雇を選択しがちですが、懲戒解雇はハードルが高いため、合わせて予備的に普通解雇もしておくべきです。
  • 解雇した場合、懲戒解雇だと退職金が出ないと相手が知れば、退職金を交渉材料に使って、退職に向けて有利な交渉をすることが可能になります。
  • 裁判になった場合、懲戒解雇が認められても、退職金には、給与の後払いとしての性格があるため、3割程度の支払いを求められることになります。退職金に功労報償的性格があることを示すためにも、自己都合退職の場合は、退職金が半額しか支給されない旨規定しておいたほうが良いでしょう。
  • 最近は退職の際に、様々な名目で一時金が払われることがあり、これらについても不支給の対象になることを明確にしたほうが良いでしょう。

懲戒解雇と退職金

就業規則で、懲戒解雇処分にした社員に対しては、退職金を支給しないと規定する必要があります。

整理解雇と懲戒解雇の最大の違いがここにあると言っていいでしょう。「あんなやつに退職金は払いたくない」との気持ちから、普通解雇ではなく、懲戒解雇を選択することが多いのではないでしょうか。ただ、懲戒解雇はハードルが高いため、予備的に普通解雇も合わせて行うことをお勧めします。

しかし、実際の裁判では、懲戒解雇が認められる事案でも、規定の退職金の3割ほどを払わされていることが殆どです。社員側に高度の義務違反ないし背信行為が認められなければ、懲戒解雇自体認められないのですから、そういった従業員に対しても、なお3割の退職金を支払わなければならないのです。

ただ、解雇した場合、懲戒解雇だと退職金が出ないと相手が知れば、退職金を交渉材料に使って、退職に向けて有利な交渉をすることが可能になります。

退職金の二面的性格

退職金は、賃金の後払い的性質と(一部を後払いとすることで、従業員の定着を促す役割)、功労報償的性質(雇用期間中の功労に金銭で報いることで、より高いパフォーマンスを期待する役割)を併せ持っています。退職金の功労報償的性質からすれば、上記規定に基づき退職金を支払わなくても問題はありませんが、賃金後払いとしての性質があることからすると、社員の退職金に対する期待を保護する必要があるのです。

退職届の効力が発生する前に懲戒解雇する必要性

懲戒解雇する前に社員が機先を制して、先に退職してしまうと、懲戒解雇が行えなくなってしまいます。契約期間が定まっていない社員が退職を申し入れてきた場合、その2週間後には退職の効力が生じてしまうため、それまでに懲戒解雇する必要があります。

退職金の規定の仕方

社長の腹一つで、退職者に功労金を払ったり、払わなかったりする場合、あるいは退職金額について、何ら算定基準がなく、社長が税理士と相談しながらその都度決めているといった場合は、そもそも退職金制度自体がないと言え、全部を不支給としても問題はありません。

退職金制度があっても、算定基準はいろいろです。「基本給×勤続年数に応じた一定割合」を支給するような場合は賃金の後払い性格が強いと言えますが、その場合でも「自己都合退職者には規定の退職金の半額のみ支給する」といった規定を置いているところが殆どでしょう。かかる規定は功労報酬的性格を表していると言えます。

こうした、退職金の決め方によって、全部不支給が認められるか、一部不支給が認められるかが決まるので、退職金の定め方にもこうした観点からの配慮が必要になります。「自己都合退職者には規定の半額のみ支給する」規定があることが、懲戒解雇した社員に対する退職金不支給の根拠となるのです。

全部不支給か一部不支給か

判断の分かれ目はどこにあるか

懲戒解雇した場合、全部不支給となるか、一部不支給となるか、仮に一部不支給となるにしても何割程度支払えばいいのかについては、前述した退職金の賃金の後払い的性格の濃淡の程度のほか、解雇理由となった当該社員の非違行為の重大性が問題になります。会社が受けた損害が大きければ大きいほど、企業秩序が害されれば害されるほど、非違行為の程度が悪質であればあるほど、支給される退職金の割合は低くなります。

レピュテーションリスクの重要性

ところで、ここでいう会社の損害は財産的損害に限られません。会社の社会的評価が既存するリスク=レピュテーションリスクも損害に含まれます。ある私鉄企業の社員が電車内で痴漢行為をしたり、運送会社の社員が私用にて酒気帯び運転したとかいった場合には、それがマスコミ等で取り上げられなくても、もしマスコミに取り上げられれば、会社に対する世間からの激しい非難が起き、社会的評価が大きく棄損するとして、7割をカットし3割の退職金しか認めなかった例があります。

権限濫用の存在は責任を重くする

また、会社の出張旅費等の不正計上を理由に懲戒解雇となった事案で、当該社員が支店長としてその決裁権を握っていたことが問題にされ、判決は7割カットの3割支給としました。悪質性のほか、企業秩序維持が考慮されてのことでしょう。

他方、店長が、一日の売り上げを締める際、不明金が生じると、自分やリーダーのポケットマネーで繰り返し補填していたというケースでは、懲戒解雇は認められたものの、自分の経済的利益を図った訳ではないとし、5割カットで済ませた判決もあります。

なぜかほとんどが7割

ただ、最近の判決例を概観すると、ほとんどの判決が7割をカットし、3割だけ退職金の支払いを認めています。おそらくは、自己都合退職でも退職金が半額になる以上、それ以上の減額は認めるべきであろうし、かといって全額不支給とするのははばかれるといった考慮が働いているのではないでしょうか。

不支給となる退職金の範囲を就業規則上明記しておく必要性

最近は退職時の支給金が多様化しています。このため、不支給となる退職金の範囲を就業規則上明記しておく必要があります。

選択制確定拠出年金制度ある会社において、従業員はそれを年金として積み立てるか、毎月給与と一緒に受け取るかを選択できることになっています。就業規則上、こうして毎月支給された額及び積立額も退職金の扱いとするとともに、懲戒解雇された場合は、そうした金額も会社に返金する旨も定めておいた方が良いでしょう。

中小企業退職金共済制度を利用して退職金(中退金)を払う場合、同制度に基づいて退職時に支払われる一時金をもって退職金とすると定め、当該一時金が支払われた場合、それを会社に返金する旨定めておいた方が良いでしょう。同様の規定を設けておいた方が良いでしょう。

最近は、セカンドキャリア準備金等の名称で、再就職支援金を給付することがあり、こうしたものも不支給の対象と定めておく必要があります。ただ、こうした規定を定めたとしても、一部は支給せざるを得なくなるであろうことは、一般の退職金と同様です。

退職後に懲戒解雇事由の存在が発覚した場合

本人が退職した後に、不正が発覚するという場合がよくあります。そのような場合、懲戒解雇もできず、退職金を払わなければならなくなってしまいます。このような事態を防ぐためには、退職後に懲戒解雇事由あることが発覚した場合は退職金の支払いを受けられず、あるいは、支払い済みの退職金を返却しなければならない旨を就業規則に規定しておくべきです。

規定例:「従業員が自然退職、自己都合退職その他の理由により退職した場合、または解雇された場合において、退職金を支給した後に、当該従業員の在職中に懲戒解雇または諭旨解雇を相当とする不都合な行為があったことが判明し、かかる行為の程度から、支給した退職金の額が不相応であると認められた場合は、その程度に応じ退職金の全部または一部の返還を求めることができる。」

退職後の競業避止

営業職の場合、いざ退職したら、在職時の顧客に声をかけて、新会社ないし転職先の会社の顧客にしてしまう場合があります。学習塾も、個々の講師の人気で集客している場合、その講師が退職後、近いエリアの学習塾に移った場合、生徒がそちらに移ってしまう場合があります。

このため、退職後、一定期間同業他社に就職しない旨、違反したら退職金相当金を違約金として支払う旨を誓約させることがありえます。期間が長すぎると職業選択の自由を奪うことになるため、禁止期間は1年程度にとどめておいたほうがいいでしょう。

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