人事・労務 - 問題社員対応、解雇・雇止め

解雇とその有効性解雇の種類を正確に使い分ける

普通解雇と懲戒解雇の違いは何?

解雇には普通解雇と、懲戒解雇があります。会社に大きな損害を与えたり、企業秩序に重大な悪影響を与えたような場合に、処罰として行う解雇が、懲戒解雇です。就業規則で、懲戒解雇となった場合には退職金を支給しないと規定されているのが普通です。

これとは別に即時解雇と予告解雇とがあります。即時解雇とはその名のとおり、その場でクビを言い渡すもので、直ちに従業員としての地位を失わせる効果があります。即時解雇は、懲戒解雇の場合のみ可能と考えている方が多くいますが、二つの意味で誤っています。

まず、普通解雇でも、1か月分の給料を支払えば、即時解雇は可能ですし、懲戒解雇だからといって1か月分の給料は支払わなくて良いわけではありません。

就業規則がなくても普通解雇はできるか

従業員10人以下の企業は就業規則の届け出義務がないため、就業規則自体がそもそも存在しないことがあります。就業規則に解雇規定があれば、それに基づいて解雇する訳ですが、就業規則自体がない場合、解雇できるのでしょうか。

答えは解雇できますが、労働契約法という法律で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。そのため、解雇はできるにはできますが、よほどのことがなければ解雇はできないのです。

就業規則に書かれていない理由で普通解雇することは可能か?

就業規則なくても解雇できるのに、就業規則で普通解雇の規定を置く意味がどこにあるのでしょう。

就業規則に普通解雇の規定が置かれているのは「普通解雇を可能にするため」ではなく、「普通解雇について就業規則で定められた以外の事項では解雇できないようにするため」のものなのです。

以前は、「就業規則がなくても解雇できる以上、就業規則にない解雇事由で解雇することも可能」というのが通説的見解でしたし、こうした裁判例も多かったのですが、平成16年1月1日から施行された改正労働基準法では、就業規則に「解雇事由」を記載することが義務付けられたため、現在は、就業規則に定められていない理由による解雇は無効とする裁判例が優勢になっています。

就業規則で普通解雇事由をどのように定めたらいいでしょうか?

このため、考えられる解雇事由はすべて列挙した方がいいでしょう。さらに、列挙した以外の事由で解雇することができるように、普通解雇事由に「懲戒解雇事由に該当したとき。」「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」との事項を加えることが重要です。

就業規則がなくても懲戒解雇はできるでしょうか?就業規則にない理由で懲戒解雇はできますか?

懲戒処分は就業規則に規定があった初めて行うことが可能です。しかも、懲戒としていかなる処分がなしうるかを規定する必要があり、その中に、譴責(訓戒)、出席停止、減給と並べて、解雇を明確に規定する必要があります。さらに、就業規則にない理由で解雇することはできないため、懲戒理由もきちんと定めておく必要があります。

すなわち、「こういうことをしたら、こういう処分がありますよ。」ということを、予め警告しておかないとならないのです。

就業規則で懲戒事由をどのように定めたらいいでしょうか?

「普通解雇事由に該当し、その程度が重大なとき」「普通解雇に該当する事実を繰り返し、注意しても改まらないとき」「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」との事項を加えるといいでしょう。

就業規則を見るためには、人事部長に申請することとしているのですが問題はありませんか?

就業規則は従業員が見ようと思えば見ることができる状態(「周知性」といいます)にある必要があります。周知性がないと、それだけを理由に解雇が無効とされてしまいます。ただし、一人一人に配る必要はなく、部屋の一画にファイルに綴じて置いておくことも可能です。また、社内のネットで見られるようにしておくことでも周知性はあるものとされています。

就業規則を、社長室や役員の席に置き、希望する旨申し出たものに見せるようにしている会社がありますが、それでは周知性を満たしていないとされる可能性があります。

一度、遅刻の常習を理由に解雇したのですが、解雇後、横領の事実も発覚しました。本人が解雇の無効を云ってきたときの隠し玉として、今は言わずにとっておこうと思うのですが、いかがでしょうか?

解雇事由ごとに解雇の有効性は判断されます。解雇理由となるA事実とB事実があったのに、うちA事実しか認識していなかったためA事実を理由に解雇したという場合、その後B事実の存在を知り、B事実も解雇理由に加えることは認められません。そのため、B事実を理由に新たに解雇処分をしなければならないのです。

もっとも、解雇当時、解雇理由となるC事実とD事実があり、両事実とも知ってはいたかが、実質的には両事実が、同一のもの、同種のもの、あるいは密接に関連するものだったため、当初C事実を理由に解雇し、その後の経過の中でD事実を加えて主張することは可能とされています。例えば、遅刻を繰り返していたことを理由に解雇した後で、遅延理由が嘘であったことが分かったといった場合です。

就業規則に記載した解雇事由を行ったのに、それが裁判で覆ることがありうるのでしょうか?

解雇の効力について、労働契約法は、普通解雇、懲戒解雇の何れを行うについても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とすると規定しています。

一般に「客観的に合理的な理由」として以下のものがあります。

  • 社員が労務を提供できなくなった場合
  • 労働能力や適格性が欠けている場合
  • 義務違反・規律違反があった場合
  • 事業の不振など経営上やむを得ない必要がある場合(整理解雇)
  • ユニオンショップ協定ある場合に、組合から除名ないし脱退となった場合。

(1)(2)(3)は社員側に原因がありますが、特に(1)と(2)については、解雇理由該当性を抑制的に判断する傾向があります。(1)については、休職規定があればその活用を求められ、復帰のための助力が求められ、それがない場合に無効となりえます。また②については、他の職務への配転や降格を考慮したかどうかを考慮した裁判例もあります。

解雇をなすについての社会的相当性についても、解雇原因の重大性、解雇原因発生に至る経緯、本人の従前の勤務成績、解雇原因についての本人の対応、本人の反省の有無、他の事例との比較、他にとりうべき手段の存否や内容が判断要素とされます。

しかも、裁判実務上、解雇をした会社の方が、解雇に合理的な理由があることを証明しなければならないとしているため、会社の解雇についてのハードルはかなり高いものがあります。

4年前入社した社員で大学卒との申告でしたが、実際は大学を中退していました。経歴詐称で解雇できないでしょうか。

就業規則上の懲戒事由に当たるからと言って、ただちに懲戒解雇できる訳ではありません。労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」と規定しています。

就業規則で定められ、また裁判上よく問題になる懲戒事由として、(1)経歴詐称、(2)職務怠慢、(3)業務命令違反、(4)職場規律違反・職務上の非違行為、(5)兼業・二重就職、(6)私生活上の非行、(7)会社批判・内部告発等がありますが、それぞれ、職務の性質、社員の会社上の立場、問題行為の悪質性、本人の対応・反省の存在、企業秩序・企業利益に対する損害の程度等を総合的に考慮して、解雇という処分が重すぎないか検討する必要があります。

経歴不問という条件の下で採用した場合に、大学卒でないからという理由で解雇はできませんし、経歴を考慮して採用したとしても、当該社員が4年間問題なく業務を遂行できていれば、大学卒という経歴自体が、当該業務遂行にとって関係がなかったことになる上、4年前の詐称行為をもって、解雇が必要なまでに信頼関係を破壊したと言えるか問題です。

欠勤・遅刻が多い社員ですが、入社直後についた上司が放任主義で注意もしないまま5年を経過しています。新しくついた上司は、他への悪影響が大きいから解雇してほしいと言ってきていますが可能でしょうか?

一般にすでに雇用してから5年も経ってしまうと、裁判になった場合、今までも同じように欠席や遅刻があったであろうに、何故、今になって解雇が必要になったのかということが問われます。今後、きちんと注意することで改善する可能性もあるので、解雇まですべきでないとされる可能性が高いでしょう。

欠勤が多い、遅刻が多いといった従業員についても、譴責→減給→出勤停止→解雇とステップを踏むことが重要です。最低でも何度か譴責処分をし、始末書を書かせるとか、「次回は解雇になる」旨警告することが必要です。

口頭注意で終わらせた場合、証拠に残りません。遅刻が実際に業務に悪影響を及ぼしたり、他の従業員の不満が鬱積し企業秩序の障害になっているとかいった事項を具体的に拾い出し、注意するごとに、当該社員が反省したか、おどんな弁解をしたか、その後改善されたかが時系列的に把握されなければなりません。

上司に反抗的な態度をとる従業員がいて困っています。7年前に当時の上司を突き飛ばし、怪我をさせていることもあるので、解雇しようとおもうのですが可能でしょうか?

ある最高裁判決(ネスレ日本事件)は、懲戒事由に該当する上司への暴行という事実があったものの、暴行事件後7年以上経過してなされた諭旨退職処分につき、社会通念上相当なものとはいえないとして、処分を無効と判断しました。

1年間の契約で雇った社員がいるのですが、遅刻が多く、注意しても治らないため解雇しようと思うのですが可能でしょうか?

なお、期間を定めて雇用された契約社員は、労働契約法上、「やむを得ない事由」がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができないと定められています。この「やむを得ない事由」とは、解雇のために必要な上記の「合理的な理由」よりさらに厳格なものと解されています。「このやむを得ない事由」も、会社側が証明しなければならないこととされています。

経費の不正請求があったため、1年前、7日間の出勤禁止にした社員がいます。先日、子会社への転籍を命じたところ拒絶してきました。経費の不正請求という詐欺行為をしているため。刑事告訴し、改めて解雇しようと思うのですが可能でしょうか?

なお、懲戒は会社という私的な社会の中のものですが、私的制裁として、刑事罰との類似性を持つともいえます。このため、二重処罰の禁止(一つの行為で2回処罰してはいけない)、不遡及の原則(問題行動当時は就業規則がないか、解雇事由に挙げられていなかったのに、後から就業規則を定め、解雇事由を追加することで処分するlことは許されない。)、一事不再理の原則(一度不問としたことを、後日判断をやりなおし、改めて処分をすることは許されない)、適正手続きの履行(弁解を聞くこともなしに処分してはならない。明確な証拠があり、かつ、非違行為の重大性が認められれば別です。)といった刑事処分上の原則が妥当すると解されています。

一度出勤停止という懲戒処分に付している以上、改めて同じ理由で懲戒解雇をすることはできません。

問題社員対応には弁護士のサポートが必要です

問題社員の対応を怠ってしまうと、問題社員との関係はもちろんですが、最大の問題は、周囲の社員のモチベーションを下げ、労働生産性を下げてしまうリスクばかりでなく、最悪の場合、会社に嫌気がさして辞めてしまうという可能性があることです。

多くの経営者は、なんとかしたい、ただ、対応するエネルギーがない、法律的にどういった対応がベストなのかわからない。といった悩みを抱えているのではないでしょうか。

問題社員の対応は、注意指導、配置転換・降格、懲戒処分、退職勧奨、解雇など法律的に適切なプロセスを踏んで対応していかなければなりません。その対応を間違えれば、企業にとって大きなリスクになります。そのため、人事労務問題を熟知した弁護士のサポートが必要なのです。

当事務所では、労働問題に特化した顧問契約をご用意しております。法改正対策はもちろん、労働時間管理やフレックスタイムの導入や、問題社員対応、人材定着のための人事制度構築など、企業に寄り添った顧問弁護士を是非ご活用ください。

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