人事・労務 - 残業代請求・未払い賃金

手待ち時間の労働時間該当性業種特有の手持ち時間と労働時間における関係性

手待ち時間とは

労働者の就業の中には、外形的には何らの作業を行っていないように見える時間帯でも、使用者の指示があれば直ちに何らかの業務に従事しなくてはならない状態にいることがあります。作業と作業との間にある不活動時間のことを、手待ち時間といい、労働基準法上の労働時間にあたるのかが問題となります。

例えば、次のような時間が、労働時間にあたるのか、問題となります。

  • 使用者が、すし店員に対し、勤務時間中、客の途切れた時などを見計らって適宜休憩してよいとしていた時間
  • タクシー運転手が客待ちをしている時間
  • 貨物の積込係が貨物自動車の到着を待機している時間
  • ビル・マンションの警備員・管理人の仮眠時間

などです。

問題の所在

手待ち時間は、休憩時間とは異なり、労働者が全く労働から解放されている時間ではありません。ただ、実際の労働をしている時間でもないことから、手待ち時間が、労基法上の労働時間に該当するのかという問題が生じます。

すなわち、労基法上の労働時間に該当するのであれば、手待ち時間に対する賃金支払いや労働時間規制の対象となり、裁判の場では、未払賃金請求、残業代請求という紛争の争点の一つとして問題となります。

労働時間とは

労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

それは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めいかんにより決定されるべきものではありません(三菱重工長崎造船所事件、大星ビル管理事件、大林ファシリティーズ事件)。

手待ち時間の労働時間該当性

手待ち時間が労働時間に該当するかは、手待ち時間中、その労働者が使用者の指揮命令下の置かれていると客観的に評価できるかによります。

手待ち時間は、作業を行っていないとはいえ、労働者は、使用者からの指示があればすぐに作業を始めなければならない状態にあり、完全に労働から解放されている休憩時間とは異なります。

したがって、手待ち時間でも、労働者は使用者の指揮命令下に置かれていると評価されることが多く、手待ち時間は原則として労働時間に該当すると考えるべきです。

労働基準法41条3号も、手待ち時間が特に多い場合を断続的労働として、労働時間規制の特別規定を設けており、手待ち時間が労働時間であることを前提とした規定といえます。

以下では、裁判で手待ち時間の労働時間該当性が問題となった(最近の)裁判例を紹介します。

裁判例の俯瞰

タクシー運転手の客待ち時間(中央タクシー事件:大分地判平成23年11月30日)

事案

タクシー会社Yで勤務するタクシー運転手Xが、Yにより労働時間からカットされた30分を超えるY社指定場所以外での客待ち待機時間分の賃金が未払いであるとして、これに該当する賃金(未払時間外労働割増賃金及び深夜労働割増賃金)等の支払いを求めたもの。

Y社は、大分駅構内での客待ち待機はきわめて非効率的で、行わないよう再三にわたり指導していたのに、Xはこの指揮命令を無視してこれを繰り返していた、客待ち待機時間を労働時間から控除する旨の労働協約や労働者との個別合意があったなどと主張した。

主な争点

30分を超えるY社の指定場所以外での客待ち待機時間は、労基法上の労働時間といえるか。

結論

裁判所は、Xの請求した未払賃金等を満額認容した(X勝訴)。

判断のポイント

  • Xがタクシーに乗車して客待ち待機をしている時間は、これが30分を超えるものであっても、その時間は客待ち待機をしている時間であることに変わりはなく、Y社の具体的指揮命令があれば、直ちにXはその命令に従わなければならず、また、Xは労働の提供ができる状態にあったのであるから、30分を超える客待ち待機をしている時間が、Y社の明示又は黙示の指揮命令ない指揮監督の下に置かれている時間であることは明らか。
  • Y社が、30分を超えるY社の指定場所以外での客待ち待機をしないように命令していたとしても、その命令に違反した場合に、労基法上の労働時間ではなくなるということはできない。
  • ある時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは当事者の約定にかかわらず客観的に判断すべきであるから、労働協約の規定があったとしても、Y社の指定する場所以外の場所での30分を超える客待ち待機時間が労基法上の労働時間に該当しなくなるわけではない。

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