人事・労務 - 残業代請求・未払い賃金

残業許可制度のメリットと注意点残業制度の在り方を正しく理解する

働き方改革関連法案の成立により、企業にとって、残業時間の抑制は、至上命題となっています。ここでは、残業許可制度のメリットと導入するに際して、注意点をご紹介していきます。

そもそも残業が認められるためには、「使用者の指揮命令下で労働を提供しているかどうか」が必要です。

これは、使用者が明示している場合はもちろんですが、黙示の指示がある場合でも認められます。「黙示の指示」とは、労働時間内で終わらないような大量な業務を命じた場合や、残業していることを知りながら、会社側がそれを黙認していたような場合が該当します。

顧問先の企業から、「あいつは仕事が遅いから残っていのに、残業代は払う必要がない」「業務終了時間になったら帰るように言っていた」というようなお話を伺うことがありますが、裁判所は、使用者側の主観ではなく、客観的に見て黙示の指示があったかどうかを判断します。そのため、上記のような事情があっても、残業していることを会社が許していたのであれば、黙示の指示があったと認められるでしょう。

大林ファシリティーズ事件(最一小判平成19年10月19日)

事案

Y社に雇用され、マンション管理員として住込みで就労していたXが、同様に住込みで管理員をしていた夫の亡A分の相続分と併せて、所定外の業務従事について、賃金と時間外・休日の割増賃金等を請求した事案

X及びAは、日曜、祝日、夏季・年末年始を除いた平日の1日8時間(午前9時~午後6時、休憩1時間)が勤務時間とされ、所定外の勤務に一定の割増賃金を支払うことが定められていた。就業規則では土曜が休日となっていたものの、X、Aのいずれか1名が勤務し、勤務した者は翌週の平日を振替休日とされていた。

判示内容

  • (所定労働時間の開始前及び終了後の一定の時間に断続的な業務をしてい たことについて、)①使用者は、上記一定の時間内の各所定の時刻に管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉、冷暖房装置の運転の開始及び停止等の業務を行うよう指示していたこと、②使用者が作成したマニュアルには、管理員は所定労働時間外においても、住民等から宅配物の受渡し等の要望が出される都度、これに随時対応すべき旨が記載されていたこと、③使用者は、管理員から定期的に業務の報告を受け、管理員が所定労働時間外においても上記要望に対応していた事実を認識していたことなど判示の事実関係の下では、上記一定の時間は、管理員室の隣の居室に居て実作業に従事していない時間を含めて、その間、管理員が使用者の指揮命令下に置かれていたものであり、労働基準法32条の労働時間に当たると判示した。
  • (雇用契約上の休日である土曜日の勤務について、) マンションの住み込み管理員である夫婦が雇用契約上の休日である土曜日も使用者の指示により平日と同様の業務に従事していた場合において、使用者は、土曜日は1人体制で執務するよう明確に指示し、同人らもこれを承認していたこと、土曜日の業務量が1人では処理できないようなものであったともいえないことなど判示の事情の下では、土曜日については、同人らのうち1人のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当であると判示した。
  • (土曜日を除く雇用契約上の休日に断続的な業務をしていたことについて、)使用者が、管理員に対して、管理員室の照明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には上記休日に業務を行うべきことを明示に指示していなかったなど判示の事実関係の下では、使用者が上記休日に行うことを明示又は黙示に指示したと認められる業務に現実に従事した時間のみが労働基準法32条の労働時間に当たると判示した。

大阪高判平成13年6月28日

  • 銀行支店における始業時刻前の金庫開扉等を行う勤務について、銀行の黙示の指示による労働時間と評価でき、原則として時間外勤務に該当すると認めるのが相当であり、会議が開催された日については、それが始業時刻前に開催された場合には、その開始時間以降始業時刻までの勤務を時間外勤務と認めるのが相当であるとされた。
  • 終業時刻後、少なくとも午後7時までの間の勤務については銀行の黙示の指示による労働時間と評価でき、原則として時間外勤務に該当し、それ以後の時間帯であっても、銀行が時間外勤務を承認し、手当を支払っている場合には、その時間も時間外勤務に該当するとされた。

名古屋地判平成3年4月22日

建築及び土木の設計等を業とする会社Yにおいて、Xの残業が恒常的となっていた。裁判所は、時間外労働といえども、使用者(Y)の指示に基づかない場合には割増賃金の対象とならないと解すべきであるが、Xの業務が所定労働時間内に終了し得ず、残業が恒常的となっていたと認められる本件のような場合には、残業についてYの具体的な指示がなくても、黙示の指示があったと解すベきであると判断した。

残業許可制度の導入する際のメリット

残業許可制度を導入メリットは、従業員の心理的に「申請が面倒だから所定労働時間内で仕事を終わらせるようにしよう」と働きかけることが期待でき、業務時間内の労働生産性を上げてもらうことです。

もちろん、そのためには、就業規則に「上司の許可なく残業した場合は、残業代は払わない」としっかり明示しておくことが必要ですし、従業員にも十分に制度主旨を理解してもらうことが肝要だと思います。

就業規則に規定する場合の例

  • 時間外労働及び休日出勤は、所属長の命令に基づき行うことを原則とする。ただし、従業員が業務の遂行上必要と判断した場合は、事前に会社又は所属長に申請をし、許可を受けて行うことができる。
  • 前項にかかわらず、事前に許可を受けることができないときは、事後直ちに届け出てその承認を得なければならない。

残業許可制度の導入する際の注意点

残業許可制度を導入しても、だんだんとチェックが緩くなり、チェックする側も申請する側も形骸化してしまうということがあります。せっかく制度を作っても、厳格に運用し続けなければ、もし、未払い残業代を請求された場合に、「承認を受けていないから残業代は払わない」では、対抗できない可能性があります。

定期的に社内に通知をする、許可制度を守らず残業する従業員に対して、個別に注意指導するというような対応が必要です。

また、法定労働時間にあたるかどうかは、下記判例が判示する通り、客観的に判断されます。したがって許可なく残業した労働者から、後に、命じられた仕事量をこなすには残業せざるを得なかったとの主張が出てきた場合、客観的にみて法定労働時間であると判断されれば、残業代を支払わなければならなくなる事態が考えられます。

三菱重工長崎造船所事件(最1小判平成12年3月9日)

事案

造船所で就業する従業員が、始業前に更衣所まで移動する時間や、更衣する時間や、作業場等から食堂等までの移動時間、保護具を脱離する時間等についても法定労働時間であるとして、割増賃金を支払いを求めた事案である。

判示内容

労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。

労務管理には弁護士のサポートが必要です

労務管理を行うためには、多岐にわたる法律に知っておく必要であり、昨今、労働法規は、法改正が立て続けに行われています。法律を「知らなかった」「きちんと運用出来ていると思っていた」では済まされず、特に、残業代請求に対する対応は、その運用を間違えれば、数百万円単位の支払いを求められ、企業にとって大きなリスクになります。そのため、労働問題を熟知した弁護士のサポートを受けながら、制度を構築・運用していくことをお勧めします。

当事務所では、労働問題に特化した顧問契約をご用意しております。経営に専念できる環境整備はもちろんですが、予防法務、制度構築運用など、企業に寄り添った顧問弁護士を是非ご活用ください。

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