人事・労務 - 残業代請求・未払い賃金

残業代の計算方法 ~手当はどこまで基礎賃金に含まれるか~適切な賃金体系の整備と予防法務対策

法定労働時間を超えてさせる労働を「時間外労働」、法定休日にさせる労働を「休日労働」といい、午後10時から午前5時までの時間外労働、休日労働を「深夜労働」といい、それぞれについて次の通り「割増賃金(残業代)」の支払いが義務づけられています。

割増賃金(残業代)の計算

例えば月給制の場合、基本給と諸手当の合計額を、月の所定労働時間数で割り算した金額を「基礎賃金」といい、これに以下の倍率をかけたものが割増賃金になります。

割増賃金の種類 内容 倍率
法定時間外労働 1日8時間・週40時間を超えて労働させた場合 1.25倍
法定休日労働 週に1日の法定休日に労働させた場合 1.35倍
深夜労働 午後10時から午前5時までの深夜帯に労働させた場合 1.25倍
月60時間超※ 月60時間を超える時間外労働をさせた場合 1.5倍

中小企業(常時労働者数が50人以下の小売業、100人以下のサービス業等)は、適用を猶予されていますが、2023年4月1日から適用されることになります。

1.25倍を超える部分については、過半数代表との協定に基づき、代替休暇の付与に代えることができます。

基礎賃金に含まれる手当の考え方

残業代の基礎賃金は、基本給だけではなく、それ以外に支払っている諸手当も基礎賃金に含まれます。

ただし、労働の対価というより、従業員の個人的事情により支給されるものであるものは、割増賃金の計算の基礎に含めない(除外する)ことになっています。法律上の除外賃金は次の通りです。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

除外賃金(手当)の名目でも割増賃金計算上の基礎賃金に含まれる場合

(1)家族手当

配偶者につき1万円、こども1人につき5千円を支給するような場合は、残業基礎賃金に含まれませんが、扶養家族の人数に関係なく一律定額を支給するような場合は、基礎賃金に含まれることになります。

(2)住宅手当

家賃のうち8割、住宅ローンのうち2割を支給するというような場合には、基礎賃金に含まれませんが、例えば、賃貸住居者には一律5万円、持家居住者には一律3万円を支給するというような場合には、基礎賃金に含まれます。

このように、除外賃金の名目で支給している場合でも、除外賃金にあたるかどうかは、実質で判断されます。労働者全員に一律で支給しているような場合には、個人的事情とは考えられず、基礎賃金に含まれるため、注意が必要です。

その他基礎賃金に含まれる例

皆勤手当、役職手当、無事故手当、危険手当など。

定額残業手当の注意点

定額残業手当(あらかじめ一定額の残業手当を月例給与に組み込んでおき、割増賃金に充てるというもの)は、給与計算の効率化や、売り手市場である昨今、より好待遇として見せたいと募集採用の観点からも、最近、よく見かける給与形態です。

使用者側としては、当然、決められた時間内であれば、残業代は払わなくてよいという認識は間違っていませんが、基本給と定額残業代が明確に区分されていることが必要です。

裁判例を見ても、定額残業手当が残業代として認められていない例も相当数あります。高知県観光事件(最二小判平6.6.13労判653号12項)は、歩合給制のタクシー運転手について、割増賃金分は歩合分に含めるとした(会社の)対応について、「時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法(労働基準法)37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難」として、別途割増賃金の支払いを命じました。

また、テックジャパン事件(最一小判24.3.8労判1060号5項)は、月所定労働時間を160時間として基本月給を定めておき、月総労働時間が180時間を超える場合は一定の時給を支給するが、140時間を下回る場合は一定額を控除するという制度の下で就労していたエンジニアからの割増賃金請求について、全体が基本給とされており、通常の労働時間の賃金にあたる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することができず、割増賃金が支払われていたとは認められないとして、別途支払いを要するとしました。

もし、定額残業手当が残業代として認められなかった場合、定額残業手当が、基礎賃金として含まれることとなり、その上で、改めて残業代を支払わなければならず、企業に多大な影響を与える可能性があります。

労働問題を熟知した弁護士に相談するかしないかで、大きく結果が変わる可能性もあります。これから導入しようと考えている企業はもちろん、すでに導入している企業においても、最適なアドバイスをさせていただきます。

労務管理には弁護士のサポートが必要です

労務管理を行うためには、多岐にわたる法律に知っておく必要であり、昨今、労働法規は、法改正が立て続けに行われています。法律を「知らなかった」「きちんと運用出来ていると思っていた」では済まされず、特に、残業代請求に対する対応は、その運用を間違えれば、数百万円単位の支払いを求められ、企業にとって大きなリスクになります。そのため、労働問題を熟知した弁護士のサポートを受けながら、制度を構築・運用していくことをお勧めします。

当事務所では、労働問題に特化した顧問契約をご用意しております。経営に専念できる環境整備はもちろんですが、予防法務、制度構築運用など、企業に寄り添った顧問弁護士を是非ご活用ください。

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