コロナウイルスに伴うトラブル相談

テレワーク導入について 多様化・複雑化する労働環境に対応するための法的対策

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、いよいよ、企業としても、テレワークの導入などを検討しなければならない段階となってきています。

実際に導入するか否かは、新型コロナウイルスの感染状況、政府・行政の対応、経営者の経営判断によるところが大きいと思われますが、いつでも導入できる状態にするために、予め、導入の可否、問題点等を知っておくことは有用と考え、情報提供をいたします。

なお、テレワークの導入については、「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を厚生労働省が作成しています。

テレワーク導入の可否

そもそも、使用者は従業員に対して、テレワークを命じることができるのでしょうか。この点、テレワークは、従業員に在宅勤務(テレワークには、在宅勤務の他、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務も含まれますが、コロナウイルス対策との関係で、在宅勤務に限って説明します。)を命じることを意味します。そして、勤務場所は、就業規則、雇用契約書、労働条件通知書に明示されることが要求されている労働条件の1つです(労基法15条1項、労規則5条1項1の3「就業の場所」)。

就業場所について労使間で取り決めがある場合

就業規則で就業場所を規定することはないため、テレワークに伴って自宅を就業場所としても、就業規則を変更する必要はありません。例えば在宅勤務を指示することは、「就業場所を自宅とする旨の配転命令」にほかならず、就業規則には、通常、配転命令についての規定が置かれていますので、これを根拠に在宅勤務を命ずることができます(サテライト勤務も同様)。

雇用契約書に就業場所を限定する特約が置かれていたとしても、在宅勤務の場合は、就業場所を変更したのではなく、会社が従業員に対して出勤を免除したと解しうるため、同特約に反することにはなりません。

労働条件通知書には「就業の場所」が記載されなければなりませんが(労働法施行規則5条1項1号3)、労働基準局による労働条件通知書の記載要領によれば、明示すべき「就業の場所」は雇い入れ直後のものを記載すれば足りるとされているため、当初から在宅勤務、サテライト勤務をさせない限り、この点が障害になることはありません。

しかし、テレワークを命じることは、労働条件の変更にほかなりません。但し、労働契約法4条2項が、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとすると定めているため、書面を交付することが望ましいといえます。在宅勤務の場合、労働時間の管理方法が変更になるため、そうした事項も併せて書面化したほうが良いでしょう。

もっとも、テレワークを円滑に進めるためには、今後労働契約書に、就業場所を記載するような場合には(しない場合は構いませんが)、「従業員の自宅、その他自宅に準じる場所として会社が指定した場所」も付加したほうが良いでしょう。

テレワーク導入の可否 まとめ

コロナウイルス感染拡大を防止するために、テレワーク導入を検討している会社は、従業員の同意は法的には必要はありませんが、テレワークという会社の管理の届きにくい態様での勤務に就かせる以上、従業員の理解と納得が不可欠となるため、制度の必要性及び内容を従業員に十分説明した上で実施すべきですし、不安を感じる従業員に対しては個別面談を行うことも検討しましょう。

また前述の通り、テレワークは労働条件の変更の意味もあるため、その意味でも、労働時間管理等、その内容について書面化すべきです。

テレワーク導入による労働時間管理

テレワークを導入した場合でも、使用者は労働者の労働時間を管理する必要があります。テレワーク中の労働時間管理の方法には、(1)通常の労働時間管理によるもの(2)裁量労働制の導入によるもの(3)事業場外みなし労働制によるものがあります。

通常どおりの会社勤務であれば、タイムカードやパソコンの起動時間、使用者が労働者の就労状態の自ら現認することにより、労働者の労働時間を把握することができます。

しかし、テレワークでは、労働者が、実際に何時から何時まで働いたのか、その間に仕事以外の作業をしていなかったかについて、使用者が把握しづらく、適正な労働時間管理が難しいという問題点が指摘されています(なお、テレワークも、厚生労働省作成の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に則る必要があります。)。

そのため、使用者としては、(2)裁量労働制(3)事業場外みなし労働制の採用によりテレワークを導入することが検討されますが、以下で述べるとおり、そもそも、裁量労働制は、対象業務が限定されているということ、事業場外みなし労働制は、労働時間の算出困難性が要件とされているということから、通常の労働者に対してテレワークを導入する際に検討すべき制度とは言い難いと思われます。また、裁量労働制、事業場外みなし労働制は、就業規則の定めと労使協定が必要なので、コロナウイルス感染拡大対策として、早急なテレワークの導入には対応が難しいと思われます。

そこで、テレワーク導入による労働時間管理の方法としては、(1)通常の労働時間管理によるものになると思われます。

(1)通常の労働時間管理の方法によるもの

始業・就業の把握

始業・就業の把握については、チャットやメールで始業・就業を報告する方法で足りると考えます。その他の方法としては、クラウド型の勤怠管理システムなどがあります。

実際の勤務時間の把握

始業・就業を把握できたとしても、始業から就業までの間、労働者が、どのように労務に従事しているのか、本当は仕事とは別の作業を行っているのではないかという点について、使用者はどのように把握すべきなのでしょうか。

この点、「テレワークをしている」=「労働をサボルことが出来る」と捉えられがちであり、使用者は、テレワークをしている労働者の労働状況を把握しなければならないという強迫観念を持ちがちです。しかし、テレワーク中の労働実態の管理については、労働者が会社内で労務に従事している際に、使用者は、どこまで、労働者を監視しているのか、という点との対比において考えるべきと考えます。

つまり、会社内で労働者が勤務している場合、使用者は、労働者の行為(コーヒーブレイクをとる、コンビニに行く、ネットサーフィンをする、雑談、中抜けなど)を逐一把握せず、ある程度は黙認しているはずです。

ですので、テレワーク中の労働者の労働内容について、逐一把握することはせず、むしろ、勤務時間の中で出された「成果」をもとに、労働者がきちんと労働したかを把握すべきです。労働者が出した「成果」の把握には、タスク管理システムなどを使うと良いでしょう。

ただし、テレワークの場合でも、厚生労働省作成の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に則り運用する必要がありますので、タイムカード等による客観的労働時間の把握ができず労働者の自己申告による場合には、PCオフの時間の確認などを随時行うことが必要となります。

残業・休日労働・深夜労働

テレワークでは、生活との線引きが難しく、長時間労働、休日、深夜労働が行われがちです。

したがって、テレワークの場合には、残業・休日・深夜労働は原則禁止とし、必要な場合には、事前申告の上、上司の許可が必要という運用にすべきです。

テレワーク時の中抜け時間

テレワークは、保育園の送迎など、一定時間労働者が業務から離れる時間が生じやすいと考えられます(いわゆる中抜け時間)。

そこで、テレワーク中の中抜け時間については、休憩時間として扱う方法か時間単位の年次有給休暇として扱う方法(有給休暇の場合は労使協定が必要)があります。

(2)裁量労働制

裁量労働制の要件を満たし、制度の対象となる労働者についても、テレワークを行うことが可能です。

専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制がありますが、中小企業においては、専門職、企画職といえる職種、業務の労働者は少なく、大部分の労働者は、裁量労働制の対象とはならないものと思われます。例えば、プログラマーは、専門業務型に含まれません。また、システムエンジニアであっても、対象業務は、システムの分析又は設計業務に限られます。

このように、そもそも、裁量労働制の要件を満たしていないにもかかわらず、裁量労働制を採用している企業がありますが、それは「名ばかり裁量労働制」となり、制度自体が無効となりますので注意が必要です。

裁量労働制を採用している場合でも、使用者は、適正な労働時間管理を行う責務を有します。

(3)事業場外みなし労働制

事業場外みなし労働制は、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であることが必要となります。テレワークにおいて、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であるというためには、以下の要件をいずれも満たす必要があります。

  • 使用者の指示に即応する義務がない状態
    情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であることが必要となります。使用者の指示に即応する義務がない状態とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態ではないことを指します。
  • 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

テレワークで事業場外みなし労働制を採用するには、以上の2つの要件を満たす必要がありますので、この要件との関係で、この制度の採用は難しいと思われます。なお、事業場外みなし労働制を採用している場合でも、使用者は、適正な労働時間管理を行う責務を有します。

フレックスタイム制

テレワークにおいても、フレックスタイム制を採用することは可能です。ただし、フレックスタイム制の採用にあたっては、就業規則等により、始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる旨を定めていること、及び、労使協定において、対象労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間等を定めること、が必要です。

なお、フレックスタイム制を採用している場合でも、使用者は、適正な労働時間管理を行う責務を有します。

テレワークの人事評価

テレワークを導入した場合には、人事評価のやり方の見直しも必要となります。

日本の企業では、労働者の労働時間が長いほど、真面目な勤務態度と評価されがちであり、労働に従事している外形が重視されがちです。

テレワーク中の労働者の労働内容について、使用者は、勤務時間の中で出された「成果」をもとに、労働者がきちんと労働したかを把握すべきであるということは、テレワークの労働時間管理のところで述べました。したがって、テレワークの場合は、勤務時間の中で労働者が出した「成果」に対して評価をしていくという側面が強くなります。

このような勤務時間の中で労働者が出した「成果」を評価対象とすることは、テレワークに限ることではなく、本来、時間よりも成果で人事評価を行うのが原則ともいえます

テレワークの導入を期に、人事評価のやり方についても、見直しをしてみてはいかがでしょうか。

テレワークの導入費用

テレワークで使用する端末費、通信費、セキュリティ対策費など、テレワークの導入には費用がかかる場合があります。

この費用について、使用者が負担しなければならない法的根拠はありませんが、労働者に負担させるのであれば、就業規則に定める必要があります

優秀な人材を確保するためには、テレワークの導入費用は、使用者が負担した方が無難です。

また、情報漏洩やセキュリティ対策のためには、一定レベルの端末やネットワークを用意する必要があるので、ネットワーク環境の統一化により労働の効率化を図るという観点からも、テレワーク導入費用については、使用者側が負担するのが妥当と考えます。

テレワーク中のコミュニケーション手段

テレワークの場合、どのようにして、社内・社外の人々とコミュニケーションをとれば良いのかが問題となります。テレワーク中のコミュニケーション手段としては、チャットやテレビ会議が有効でしょう。チャットは、複数人で会話調でのやりとりができますので、コミュニケーションツールとして優れていると考えます。

また、対面での会話が必要な場合には、テレビ会議を導入することが有効でしょう。チャットツールとしては、Chartworkがおすすめです。規模が小さい会社であれば、Lineでも可能です。テレビ会議システムとしては、Zoom(音がクリア、セミナー開催向け)、Whereby(短時間の電話会議向け)、Teams(裁判所が採用)などがあります。

テレワークに関しては、ここでご説明した以外にも、労働時間制度の選択、テレワーク中の事故、業務管理などいくつかの問題があります。法律事務所ホームワンでは、会社の実情に合わせたテレワーク勤務規程の作成を承っております。テレワークの導入を検討している会社の経営者様はお気軽にご相談ください。

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