コロナウイルスに伴うトラブル相談

コロナウイルスなど緊急時における整理解雇のステップ 不当解雇として認められないようにするために留意すべきポイント

コロナウイルス感染拡大の影響により、会社の収益が減少する一方で必要経費だけが通常通りに発生し、助成金等がもらえたとしても、人員を削減するなどして、なんとかこの状況を切り抜け、倒産は免れたいという経営者が多いのではないでしょうか。

懲戒解雇や普通解雇とは異なり、整理解雇は、法律上の明確な根拠がなく、裁判例の積み重ね等により生み出された概念です。この積み重ねられた裁判例により、整理解雇が認められる4つの要件が構築されました。

整理解雇の4要件

  • 人員削減の必要性
  • 解雇回避措置の相当性
  • 人選の合理性
  • 手続の相当性

この4つの要件を満たさない限り、整理解雇が認められないかというと、4要件に限定されるべきではなく、諸要素を総合考慮して解雇権の濫用か否かを判断すべきであるとする見解に基づき判断をしている裁判例も増加しています。

しかし、解雇に際して適用される労働契約法16条の解雇権濫用法理は、整理解雇の場合、使用者側の事情に基づき行なわれることから、懲戒解雇や普通解雇と異なり、厳しく判断されることからすると、4つの要件を満たすように整理解雇を進める方が良いでしょう。

(1)人員削減の必要性

人員削減の必要性は、倒産の危機といった差し迫った状況にあることまでは必要ではないが、債務超過や累積赤字の状況にあるなど、高度の経営上の必要性に裏付けられる必要があります。そのため、具体的に、削減人数に見合うほどの削減の必要性があるということが重要となります。

このことを事後的に立証できるようにしておく必要があり、財務状況の客観的数値から、削減人数の算出根拠を説明できるようにしておくことが大切です。

企業全体では黒字だが、一部の事業部門が赤字という場合でも、人員削減の必要性が認められることもあります。

(2)解雇回避措置の相当性

解雇回避措置として考えられるものは、経費削減、役員報酬の減額、残業抑制、新規採用の停止・縮小、昇給停止・一時金支給停止、一時帰休、配転・出向・転籍等の実施、非正規労働者の労働契約解消、希望退職募集等があります。これらの中でも幅広く退職希望者を募る希望退職募集手続を行なっているか否かが非常に重要となります。

もっとも事業部門閉鎖の場合、全員が余剰人員とされることが多く、その場合希望退職手続きは不要とした裁判例もあります。

どこまでの措置を取っていれば、解雇回避措置として相当であると評価されるかは、事案により異なるため一概に言うことはできません。しかし、倒産の危機に瀕している場合には、手厚い解雇回避措置を講じる余力がないこともあり、経営状態、企業規模、人員削減の目的等に応じて、どこまでの措置を講じるべきかを個別に判断するしかありません。そのため、コロナウイルスにより経営状態が悪化し、倒産の危機に瀕していることから、整理解雇をする必要性があったとしても、まず解雇ありきと即断することなく、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

(3)人選の合理性

整理解雇の対象となる労働者の人選が恣意的なものであってはならないため、客観的で合理的な基準を設定する必要があります。

人選の基準としては、年齢、勤務実績、解雇回避措置たる転勤等を拒否したこと、正社員と契約社員の別等がありますが、それぞれについて客観性、合理性が検討されなければなりません。

年齢は、恣意が入り込む余地がなく、高額の人件費の削減、耐力、適応性等の点からも合理的と解されることが多いでしょう。

欠勤日数、遅刻回数、規律違反歴、勤続年数、休職日数等の勤怠は、年齢と同様、数字により客観的に示されるため恣意性がなく、合理性も備えています。人事考課を基準とすることについては、その恣意性を理由に、整理解雇が無効となることがある。そのため、人選基準の設定段階で、評価項目、評価対象期間、評価方法等が明らかにされる必要があるが、抽象的な項目について5段階評価しただけのものであったり、人事考課が定期的に行われていなかった場合、恣意性の疑いを排除できず、これを基準とした整理解雇を無効とした裁判例もあります。

会社が解雇を避けるため、配転、出向、転籍、労働条件の切り下げを提示し、他の従業員の多くがこれに応じたのに、これに応じなかった少数の従業員を整理解雇対象とする場合、整理解雇が無効とされることが少なくありません。「会社が恣意的に移籍先を選択し、これがあっせんに応じなかった者を整理解雇することを容認することにもなりかねない」裁判例(日新工機事件)もあり、解雇措置の不利益の程度が大きいほど、整理解雇は認められにくくなります

正社員についての希望退職募集の前に、臨時社員の雇い止めが行われてもやむをえないとした最高裁判例(日立メディコ事件)があるため、非正規従業員を先に雇い止めすることを認めた裁判例が多くあります。

事業部門を廃止する整理解雇の場合、閉鎖部門労働者全員を対象とし、あえて人選を問わないとする裁判例が優勢ですが(ナカミチ事件、角川文化振興財団事件)、部門間の人事異動が慣行となっている場合、たまたまその時期にその部門に属していたことで解雇対象となったことになり、公平性を欠くとして、整理解雇が無効となりえます。

(4)整理解雇手続の相当性

労働協約に協議・説明義務条項がある場合は、もちろんですが、ない場合であっても、使用者が、労働者・労働組合に対して、整理解雇の必要性、その時期・規模・方法について納得を得るために説明を行ない、それらの者と誠意をもって協議することが重要となります。

十分な説明等を行なったことについては、議事録を作成するなどして客観的資料を残しておくようにしましょう。

(5)紛争が起きた場合に必要となる資料

決算書、財務諸表、整理解雇の計画書、希望退職者の募集要項、マニュアル等(解雇回避努力義務、人員選択の合理性に関するもの)、経費削減に関する一般的資料。

解雇無効が争われた裁判例

平成20年9月15日起きたリーマンショック後の不景気の際、整理解雇を行なう会社が多くありました。その中で、解雇無効が争われたものもあり、実際に解雇が有効とされたものと無効とされたものと判断が分かれています。

整理解雇が有効と判断されたものは、会社の従業員が4名の小規模会社のケースで、会社として取り得る解雇回避努力を尽くしてもなお解雇せざるを得なかったというものでした(東京地裁平成24年12月13日判決)。

この裁判例では、会社の規模からして、希望退職者を募集する手続をとることが困難であると判断されています。そのため、必ずしも、希望退職者の募集をしなければならないということではありません。

他の解雇が有効とされた裁判例でも、会社として取り得る解雇回避努力がなされたと評価できる場合に認められていることからすると、会社として取ることができる解雇回避努力を尽くしているかが非常に重要ということです。

もっとも、今すぐにでも倒産という状況下において、会社として解雇回避努力を尽くしている場合ではないかもしれません。それにもかかわらず、上記の整理解雇の4つの要件を意識して動くことは会社にとっては酷でしょう。しかし、後日、紛争になる場合のリスクの方が大きいため、専門家にご相談ください。

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