コロナウイルスに伴うトラブル相談

労働者を休ませる場合の措置 コロナ禍で企業がとるべき休業対応と留意点

新型コロナウイルス対策の⼀環として、事業所を閉鎖したり、自宅待機を命じることが考えられますが、その場合、賃金や休業手当を支払う必要があるのでしょうか。以下、具体例を示して検討していきます。基本的な考え方としては、従業員と十分に話し合い、労使が協力して、従業員が安心して休暇を取得できる体制を整える必要があります。

労働者に給料を⽀払う義務があるかどうか

新型コロナウイルス対策の⼀環として政府や自治体が社会機能維持に関わる事業者を除く事業者に対して事業自粛、事業所閉鎖を要請し、事業者がそれに応じて閉鎖をした場合、会社は新型コロナウイルスに罹患していない労働者に給料を⽀払う義務があるのでしょうか。

以下の判例が参考になります。

事業所閉鎖がやむを得ないものかどうかがポイント

最判昭50・4・25民集29-4-481
「労働者のストライキに対抗したロックアウト(作業所閉鎖)をした使用者が労働者に対してロックアウト期間中の賃金を支払う義務があるかについて、正当な争議行為として是認される場合には、その期間中における対象労働者に対する賃金支払義務を免れると判断」

事業所閉鎖がやむを得ないものかどうかがポイントとなります。当該事由があるか専⾨家等と協議を尽くして判断した結果であれば、原則として、給料、休業⼿当、休業補償は不要です(一方、単に政府・⾃治体からの要請がなされたから、という理由だけでは、「やむを得ない」にはならない可能性がある。)。

「業種別ガイドライン」を参考に

今回の新型コロナウイルス感染についての労働者対応を検討する上で参考になるのが、「業種別ガイドライン」です。

業種別ガイドラインについて

不可抗力による休業の場合

不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はないのですが、ここでいう不可抗力とは、

  • その原因が事業の外部より発生した事故であること
  • 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

の2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。

(1)に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対応が取られる中で、営業を自粛するよう協力依頼や要請などを受けた場合のように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。

(2)に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、

  • 自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
  • 労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか

といった事情から判断されます。

事業所閉鎖以外の場合

事業所閉鎖とまでいかなくても、

  • 出張先から戻った従業員に14⽇間⾃宅待機を要請する。
  • プライベートな旅⾏から戻った従業員との取扱いに違いを設ける。
  • 家族が新型コロナウイルスに罹患した場合には、従業員に14⽇間の⾃宅待機を要請する。

といったことが考えられます。これらの対応は認められるのでしょうか。考え方の枠組みは、

  • 100%有給であれば問題ありません。
  • 休業手当(60%)による対応の場合(休業手当だけ支払い、100%は支払わない。)には休業とすることについて民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」がないことが求められます。
  • 100%無給とする場合には、民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」がないことが必要です。

また、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされていますので、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」がないことも必要です。

前記の通り、不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。

前記(1)ないし(3)について、

(1)について⾃宅待機の⽅法の他に感染防⽌措置があり得るので、無給で⾃宅待機を命じることは困難です。

(2)について合理的な理由が無く、違いを設けることはできません。

(3)について無給では困難。有給にしたうえで、さらに合理的な期間について検討する必要があります。

労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の判断について、一概にはいえませんが、一般に以下の通り考えられています。

「使用者の責に帰す」判断事例

(1)使用者の責に帰すべき事由にあたらない(休業手当不要)

  • 自然現象・天災事変による休業
  • ボイラーなどの汽罐検査による休業
  • 健康診断結果に基づいての休業や労働時間の短縮

(2)使用者の責に帰すべき事由にあたる(休業手当必要)

  • 使用者の故意又は過失による休業
  • 仕事がない、製品が売れない、資金調達が困難など
  • 経営不振による休業
  • 資材の不足による休業
  • 会社の設備、工場の機械の不備・欠陥による休業
  • 従業員不足による休業
  • 親会社の経営不振による休業
  • 経済産業省などの操短勧奨に基づく時短

自宅待機(出社停止)命令の対象者と当該対象者の状況についても、一概にはいえませんが、一般に以下のア~オは、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので無給(有給休暇制度の活用)と考えます。一方カ・キは、休業手当や通常通りの賃金を支払う必要があります。

  • 感染者(感染症予防法第12条第1項第1号)
    →届け出、入院、入院勧告
    →医師は届出
  • 無症状病原体保有者(感染症予防法第6条第11項、第12条第1項第1号)
    →届け出、入院、入院勧告
    →医師は届出
  • 疑似症患者であって当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のあるもの(感染症予防法第8条)
    →感染症患者とみなす(感染症予防法第12条第1項第1号による届け出)
  • 疑似症患者(感染症予防法第6条第10項)感染症の疑似症を呈している者
  • 感染症の病原体に感染したおそれのある者(検疫法第16条)→ 停留(罰則付き)
    ※航空機で感染者の2m以内にいた者
  • 感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者(感染症予防法第44条の3)※濃厚接触者(職場で2m以内にいた者、家族が罹患した者)
    →省令に基づき体温その他の健康状態について報告を求めることができる。
    →省令に基づき自宅待機、外出禁止を要請できる。
    ※その場合、これに応ずるよう努めなければならない。
    ※保健所では、自宅待機を要請していない。健康チェック
  • 上記以外の者
    ※健康チェック、手指消毒、咳エチケットの励行

以上のように、新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休まれる場合は、通常の病欠と同様の対応になります。

なお、休業手当の支払い等について、アルバイト・パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者など、多様な働き方で働く方も含めて、休業手当の支払いや年次有給休暇付与が必要となっております。

非正規雇用であることのみを理由に、一律に対象から除外することは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正されたパートタイム・有期雇用労働法及び労働者派遣法の規定(大企業と派遣会社は令和2年4月、中小企業は令和3年4月から施行)に違反する可能性があります。

ちなみに、新型インフル時の会社の取り扱いはどうだったかといいますと・・・

「企業における新型インフルエンザ対策の実態」

リンク先記載の通り、①従業員に感染が確認され、本人を自宅待機とした場合には、賃金を通常通り支払った会社が約3割であり(図表3)、②同居家族に感染が確認され従業員を自宅待機とした場合には、賃金を通常通り支払った会社が約4割だった(図表4)ようです。

社員が感染リスクを理由に出社を拒否した場合

さらに、継続業務に従事してほしい社員が、感染リスクを理由に出社を拒否した場合に、業務命令として出社を指⽰することは可能かという問題があります。

判例(千代田丸事件、最三小判昭43.12.24 民22-13-3050)の判旨は「業務に伴う通常の危険を越える生命身体に対する危険がある業務命令は、拒否することができる。」ことを前提とした論理を展開しています。

十分な感染防⽌措置が施されていない場合、出社命令⾃体が否定される可能性があります。裏を返せば、感染リスクを排除するに必要な労働環境を構築しているのであれば、使⽤者は労働者に業務命令として適法に出社を命じることができます。

一旦解雇という形をとった場合

また、事業中断が長引きそうなので、⼀旦解雇という形をとって、雇⽤保険の失業給付を受けることを従業員に求めることはできるのでしょうか。

この点について、雇用保険法第10条の4(返還命令等)は、偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合には、政府は、その者に対して、支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、厚生労働大臣の定める基準により、当該偽りその他不正の行為により支給を受けた失業等給付の額の2倍に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができると定めています。

また、刑法第246条(詐欺罪)は、人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処すると定めています。

以上より、⼀旦解雇という形をとって、雇⽤保険の失業給付を受けることを従業員に求めることは認められず、その態様によっては、刑事犯罪として逮捕等の可能性もあります。さらに、返還および納付を命じられた額に延滞⾦も加算されます。

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