契約法務

契約書作成のチェックポイント

市販の契約書で大丈夫でしょうか?

契約書の作成を弁護士に依頼する会社はまだまだ少数かもしれません。市販の契約書、取引先からもらった契約書のひな型で十分、そんな方が多いかもしれません。しかし、市販の契約書を使っている場合、いざトラブルになってから、契約書を見て肝心なことが取り決めていなかったということがあります。

取引先から貰った、一見立派な契約書も、相手に有利な条項ばかりあるということもよくある話です。中には契約書を結んだが、署名した人が無権限者だったということもあります。

契約の相手方はその人で大丈夫ですか?

契約をする前に、最低でも登記簿で役員を確認しておきましょう。代表権を持っていれば、登記簿上にも代表取締役の記載があります。

支店長も当該支店業務について代理権を持っていますが、支店長登記がなされることは滅多にありません。ただ、名刺に支店長、事業本部長等の肩書が記載有る場合、実際に代理権がなかったとしても、商法13条の表見支配人に該当するとして、契約が有効に成立することもあります。ただこういった救済規定に救われることのないよう、極力代表取締役の署名押印を貰うべきでしょう。

ことに注意してほしいのは、いったん有効に契約が成立したが、後日内容を訂正する場合に無権限者との間でしか合意ができていなかった場合です。

債務者の住所が移った場合に対処できるようになっていますか?

Xさんが、A市からB市に住所登録を移してから5年以上経過してしまうと、A市ではXさんの過去の住民登録情報を全て廃棄してしまいます。ですから、5年経つ前に住民票を取り直しておくことが必要です。最近、他人の住民票の取得が益々困難になっていますから、契約書に、債務者に4年毎に住民票の提出を義務付ける規定を置くとよいでしょう。そうすれば、役所で住民票の写しをスムーズにとることができます。

本籍が分かれば、戸籍の附票をとって、現住所を調べることができますが、最近は運転免許証にも本籍地が記載されないようになっているため、本籍地を知ることが困難です。そのためにも住民票を定期的に取得する必要があるのです。

外国人と取引する場合の確認事項

外国人と取引する場合、在留カードで、本人かどうか、在住資格が何かを確認することが必要です。

平成24年7月9日付で改正入管法が施行され、3ヶ月を超えて在留資格を有する外国人(中長期在留者)は、地方入管(各都道府県に本局、出張所、支局のどれかが存在する)で在留カードを渡され、14日以内に住所地の役所に行き、残留カードに住所を記入してもらうことになります。

在留カードには、氏名/生年月日/性別/国籍・地域/住居地/在留資格/在留期間とその満了日/「入国許可」「在留更新」等の、許可の種類と、その許可年月日/在留カードの番号・交付年月日・有効期間満了日/就労制限の有無/資格外活動許可の有無が書かれ、16歳以上の場合は顔写真が入ります。

以前は、外国人については外国人登録原票が、日本国籍を有する者については住民基本台帳が作成されていましたが、外国人登録法が廃止され、現在は、特別在留者、中長期在留者等も住民基本台帳に登録されることになりました。

中長期在留者は入管から交付された在留カードを役所に持って行けば、住民票登録が作成されます。 相手の外国人の方が日本の住所で外国人登録していれば、当該自治体で印鑑登録できます。当該外国人が、印鑑登録をしていない場合、「サイン証明書」を在日公館などで交付してもらう方法があります。

また、在日公館にて、自分のサインを証明してもらい、証明書を交付してもらうことで、印鑑証明書の代替証明書として使用することができます。

契約書にはない、覚書の活用法をご存じですか?

合意書は「契約締結前段階」の書面、覚書は「契約締結後段階」の書面という使い分けがありますが、あくまで慣例です。

よく、相手方から、うちは「この書式でしか契約していないから」と言って、契約の修正に応じてもらえないことがあります。その場合、契約書の解釈について、覚書を作成しておけば、契約書は変えずに、合意内容を書面に盛り込むことができます。契約締結段階では、具体化したおらず、その後具体化する中で覚書と作成するということもあるでしょう。

こうした場合、覚書を作成することができなくても、相手方担当者からの電子メールで「第●条に▲とある中には、■は含まれておりませんのでご了解ください」などと確認の文言を入れてもらうことも有用です。

ただ、こうした手が使えるのは「契約条項が不明確」な場合です。契約条項を訂正する場合には、権限者の署名捺印ある文書をとらなければなりません。

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契約条項には必ず主語を入れていますか?

英語では、SVO、SVC、SVOCなど、文法上、必ず主語を入れる必要があるため、契約条項で主語がもれるということはないのですが、日本語の場合主語なしで文章ができてしまうため、契約書でも主語が抜けていることがあります。契約書では必ず主語を入れてください。

甲と乙とを取り違えないためのテクニックを知っていますか?

契約書を見ると、甲と書くべきところを乙としていたり、というミスが起こりがちです。これを防ぐためには一度契約書を作ったら、ワードの一括変換機能を使って、甲と乙とを、固有名詞などに置換したうえで、契約書をチェックすることが有効です。

「甲は乙に対し●円を支払うものとする」という文書だと、甲乙の取り違いに気がつかなくても、「自分は相手に●円を支払うものとする」とあれば、間違いにすぐ気が付きますよね。

逆に、下書きでは甲乙を使わず、「自分」「相手」で全部契約書を書き、最後に甲乙に一括変換することも有用です。

契約当事者でない者を契約書に入れるとき、どこに注意していますか?

契約当事者でない者も、契約書に入れても、当然のことながら、その者に契約の効果は及びません。

たとえば、「契約外の丙が必要書類を甲に交付すること」を契約書に織り込む際は、「丙が書類を甲に交付しない限り代金支払い義務は発生しない。」としたり、「丙が必要書類を交付しないときは契約解除ができる。」との規定を置くなどの工夫が必要です。

第1条に「契約の目的」を書く理由をご存じですか?

第1条には契約の目的を書きます。売買、賃貸借、消費貸借などといった、単純な契約であれば、目的も簡単に記載できますが、業務委託契約などは、委託内容が非定型的であるために、慎重さが必要です。

請負契約においても、何を成果物とするかを明確に決めなければなりません。中には、請負なのか(成果が必要)、委任なのか(成果は不要)がはっきりしない契約もあったりします。

目的をどう書くかを詰めて協議する中で、双方の思惑の違いが見えてくることもありますのでおろそかにしてはいけません。契約の目的も書けないのであれば、お互いのめざすビジネスの内容も定まっていないということです。

どちらが費用負担をするか明確になっていますか?

「前項による乙からの通知あった場合は、甲は、本件成果物について、通知後1週間以内に補修しなければならない。」といった条項がある場合、通常の解釈ですと甲が費用を出すことになります(債務履行費用は債務者負担)。もし乙が費用を負担する合意があるのであれば、「乙の費用にて」と記載する必要がありますし、費用の支払時期、支払い方法を予め決めておく必要があります。

検品の基準は明確ですか?

以下の点に注意してください。

  • 検品の前提として、納品先は明記されていますか。
  • 検品についての基準、仕様が定まっている場合は、別紙でその基準、仕様を明らかにしておきましょう。
  • 検査結果が合格の場合、何をもって検収完了としますか(検収書の発行をもって検収完了とするのが通常)
  • 不合格の場合には、補修期間について予め規定しておく必要があれば規定してください。
  • 不合格となった場合、補修の費用負担者、補修物の納期、検査期間は定めてありますか。
  • 納品後何日以内に不合格通知がない場合は、合格したものとみなすといった規定がおかれることがあります。ただ、売買の場合、商法は買主に対し「目的物を受領後遅滞なく検査しなければならない」「検査により瑕疵、数量不足を発見したときは、直ちにその旨の通知を発しなければ、それを理由として解除、代金減額、損害賠償を請求できない。直ちに発見できない瑕疵の場合、6箇月以内にその瑕疵を発見したときも同様とする」と規定していますので、この規定とのバランスを絶えず考えてください。発注者としては下請法が禁止する「受領拒否」行為に当たらないか、注意する必要があります。
  • 検収完了と代金支払期限とリンクさせていますか。
  • 発注者として、期限までに全量の納品が調わないと契約の目的を達しえない場合、全額について代金支払を行わず、受領分も直ちに返品する旨規定することも考えられます。ただし、下請法が禁止する「受領拒否」行為に当たらないか、注意する必要があります。

開発委託契約の場合、請負か準委任かを明らかにしていますか?

準委任か請負か

システム開発は、要件定義→開発→保守・運用という経過をたどります。要件定義段階は準委任契約とすべきですが、開発段階は通常請負契約の形態をとるのが普通でしょう。

ただ外部設計については、ユーザが主体的に行い、ベンダはその支援業務を準委任で行うやり方もありえます。外部設計を準委任契約の形態にした場合、システムテストの主体もユーザとするのが適切でしょう。請負契約とした場合でも、ユーザはベンダが実施すべきテスト仕様を明確に提示する必要があります。

JISAのモデル契約書平成20年版の特徴は何でしょうか

  • 準委任と請負との両様の規定を用意、
  • 疵担保責任はベンダの過失が要件、
  • ベンダからの納期変更が可能、
  • 納入物の所有権移転時期を代金完済時、
  • 電磁的記録の利用のルールの明確化、
  • 準委任型の業務における作業期間・工数の合意の法的効果を明確化、
  • 変更の協議不調等に伴う契約終了においてベンダの解約権を肯定、
  • 知的財産権侵害の責任の対象範囲を限定、
  • 第三者ソフトウェアを複数扱うことを前提、
  • 瑕疵を原因とする場合の損害賠償責任の範囲を限定、瑕疵担保責任において責任範囲の明確化、
  • 不可抗力による履行不能等が生じた場合の免責範囲を例示しました(一部代替条項あり)。

請負契約の場合の中間報酬の定め

請負の場合、報酬は原則後払いです。各工程ごとに中間金の定めをした場合に、テストの段階で品質不良が発覚して結局システムが完成しなかったら、既に支払われた中間金がどうなるか争われることになります。途中で支払われた中間金を、あくまでも仮払だとすれば、返還義務が発生しますし、それぞれの段階における確定的な報酬だと考えれば、返還義務は生じません。

この点について、IBM対スルガ銀行のシステム開発事件の東京地判平成24年3月29日が重要です。

IBM対スルガ銀行のシステム開発事件 判決概要

当初は新システムを95億円で開発するという基本合意書が交わされたが、要件定義継続中「新システムを89億7080万円で開発し、 2008年1月に稼働させる」と合意が成立した。

原告スルガ銀行は、システム完成に至るまでの一括請負契約が成立し、結局システムを完成できなかったのだから、既に支払った約60億円、逸失利益を含む計115億8000万円を支払うよう求めた。

被告IBMは、各フェーズ毎の個別契約を結ぶことを想定しており、要件定義工程における個別契約を履行した以上その分の報酬は返還する必要はなく、むしろ、個別契約の範囲外の追加作業を大量に行っており、原告は追加報酬金を支払うべきであると主張した。

裁判所は、本件合意はシステム完成に至るまでの一括請負契約を意味するものであり、要件定義の失敗の責任は主としてY側の過失によるものであるとし、被告に74億余円の支払いを命じた(その後控訴)。

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通知する際、書面か口頭の何れによるかを明示していますか?

当事者の一方が他方に通知することを規定する場合、単に「通知」としただけだと口頭でも良いことになります。「書面」に限るのであれば、その旨明記すべきですし、電子メールも含むなら、「書面ないし電子メール」と明記すべきです。また電子メールで通知する場合のメールの送信先も明記した方がトラブルは起きないでしょう。

「何日以内」の起算日が明記されていますか?

「何日以内に」という規定があるのに、「いつから」かが抜けている場合があります。「契約日以降14日以内に」とありながら、契約書の日付が抜けていたり、一方当事者の契約書にしか契約日が記載されていなかったりとか、することがないように注意してください。「契約日」を起算日としても、契約書取り交わしが郵送でされる場合、起算点が不明確ないし不正確になりがちです。その場合、「契約日から●日以内に」とせず、具体的に「平成●年●月●日までに」と、期限を特定する方がよいでしょう。

「何日以内」とある場合、初日は算入しないのが原則ですので、注意してください。そこが気になるようなら「●年●月●日●時までに」と記載すべきでしょう。

期限の利益喪失条項はついていますか?

支払が遅れている債務者との交渉で、一括払いを分割払いに切り替え、その約束を念書にすることがありますが、その際「期限利益喪失約款=期失約款」を入れないで念書を作ってしまう人が時々おられます。その場合、期限に遅れた債務者に対して一括請求ができなくなってしまいますので、分割払いの場合は必ず期失約款を入れるようにしてください。

そもそも、こうした場合は、相手方に分割支払いの要請を文書で行わせ、こちらは回答しないというやり方で、一括請求する余地をフリーハンド状態で保持しておくことも考えられます。ただ、その場合分割払いを長く続けさせると、分割払いを承諾したともとられかねません。そのため、「分割払いを認めるが、1年後に残額を一括返済する」規定にしておき、毎年増額交渉を行えるようにしておく方法もあります。

期限の喪失事由については以下を注意ください。

  • 手形が不渡りになった時を想定し、「銀行取引停止処分を受けたとき」という事由を記載されていることがあります。

    6か月以内に2回不渡りがないと、銀行取引停止処分とはならないため(東京手形交換所規則第65条には「不渡報告に掲載された者について、その不渡届に係る手形の交換日から起算して6か月以内の日を交換日とする手形に係る2回目の不渡届が提出されたときは、次の各号に掲げる場合を除き、取引停止処分に付するものとし、交換日から起算して営業日4日目にこれを取引停止報告に掲載して参加銀行へ通知する。」とあります。)、「自ら振出し又は引受けた手形・小切手が、不渡りとなったとき」と規定すべきです。

  • 「破産手続、民事再生手続、会社更生手続、または特別清算が“開始されたとき”」では不十分で、「破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、または、特別清算“開始の申立があったとき”」とすべきでしょう。

    なかには「和議手続の申立があったとき」との記載も時々見ますが、現在和議手続は廃止になっています。あってもマイナスにはなりませんが、格好良いものではないので、外した方が良いでしょう。

  • ほかにも、「支払いの停止」「租税公課滞納し督促を受けた時」「営業を停止、または、廃止したとき」、「監督官庁より業務停止又は事業免許若しくは事業登録の取消処分を受けたとき」「解散決議を行いまたは解散命令を受けたとき」「連絡なく本店所在地を変更したとき」「保証人資力、返済能力につき虚偽の申告があったとき」「保証人が死亡したとき」「担保の滅失ないし価値の減少(不可抗力含む)」等の事由も有効です。

  • 「その他信用状態が悪化し、または悪化のおそれがあると相当の事由をもっても認められるとき」といった包括的規定を設けることがあります。

表明保証を知っていますか?

欧米の契約書では、表明保証が重要な役割を果たしています。「乙は、甲に対し、本契約の締結日において、次の各号に記載された事項が真実に相違ないことを表明及び保証する。」といった形で規定されます。例えば、ある事情が発生して、契約の継続が困難になった、あるいは得られるべき利益が得られなくなったという場合、損害賠償の問題が生じますが、この事情であれば甲の責任、この事情であれば乙の責任と、責任分担が決まっていれば解決がスムーズです。

最近では、日本国内企業同士の契約でも表明保証の規定が利用されるようになってきました。現在民法債権編の改正作業が進んでおり、債務不履行について過失責任主義が廃止されようとしています。そうなると、個々の契約で、表明責任規定を設けて責任分担を決めることが多くなりそうです。

表明保証条項を設けるとき、どこに気をつけていますか?

表明保証条項を設けた場合、条項違反の効果を、損害賠償、解除、減額請求等のどれにからめるのかを明確にする必要があります。

表明保証の場合、いつの時点での「表明事項」を保証するのかという意味で基準日の設定が本質的に不可欠です。また、当該表明保証の「有効期限」を設け、その期限内でしかその不存在を法的に主張できないように定めることがあります。この点は、任意的ではありますが、後日争いを生じないように有効期限を定めておくべきでしょう。

表明保証を誰にさせるかも検討していますか?

売買の場合、従来は売主側だけが表明保証を行う場合が多かったようですが、買主が支払能力について表明保証を行う場合も最近増えてきたようです。

表明保証の対象は、通常契約の相手方ですが、第三者に対して表明保証させることも可能です。たとえば、目的物がAからBに売却され、その物にCが担保権を設定するというようになっている場合、契約当事者はA、Bですが、AがCに対して保証するということもありえるのです。

免責条項、損害賠償制限条項

たとえば、甲社が乙社から、ソフト開発を依頼され100万円で引き受けました。ところが、そのソフトのプログラムに欠陥があり、乙社がそのソフトを組み込んで作った商品を回収するということになり、その損害額が500万円にも及ぶことになりました。こうした例に備えて、損害賠償額を契約代金以内に抑える条項もよく見られます。

ただ、対消費者の場合、注意する必要があります。消費者契約法10条に「民法 、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則(信義誠実の原則)に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 」と規定してあるからです。ですから消費者相手の契約の場合、消費者から責任上限額を超える請求があった場合、当該請求が認められてしまう場合もあるのです。

製造物責任

製造物責任法により、製品を製造、加工又は輸入する業者、製品に自社の名前、商号等を記載し製造者と誤認させるような表記をした者(製造者とは明記されていなくても販売方法等から、製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者も含まれます。)は、納品した製品の欠陥により人の生命、身体又は財産を侵害したときは、その人が契約当事者でない第三者だとしても、損害を賠償する責任があります。

ここにいう「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。

この製品が部品であり、納品先がこの部品を組み込んだ製品を製造した場合は、納品先も製造物責任を負います。この場合、通常、ユーザーは納品先の製造物責任を追及してきます。そのため、部品の納品者と納品先との間では、当該部品がもとで製造物責任を生じた場合、納品者が責を負うべきことを規定するのが普通です。ただ、納品先が、独断専行してユーザと示談をし、その責任が納品者に押し付けられては納品者が困るため、和解に先立って、納品者が納品先に、賠償するかどうか、賠償額はいくらとするかについて協議を申し入れることができる旨規定されることもよくあります。

なお、納品者は、次の場合には責任を免れる旨規定するよう求めるべきでしょう。以下は製造物責任法が定める免責事由ですが、注意規定として置いた方が良いでしょう。また、納品先が交渉で優位に立つ場合は、納品先に部品を組み入れる製品を別紙で限定し、異なる製品に使用された場合は賠償責任を負担しない等、法律が規定しない免責事項を設けることも必要です。

  • 本件製品を納品先に引き渡した時点における、科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかった場合
  • 本件製品の欠陥が、専ら納品先の設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がない場合

また、製造物責任は、製品自体の損害には適用はないことにご留意ください。製造物責任は起こそうと思って起きるものではありません。いざというときに備え、PL保険に入っておくことも必要です。

競業避止業務を定めていますか?

製造委託等で自社の技術情報を他社に開示する場合は、守秘義務を課すだけでなく、一定期間の類似商品の販売を禁止する競業避止条項を設けることが必要となります。その場合、期間や対象を限定する必要があります。優越的地位ある場合は、不公正な取引方法とされないよう期間、対象も合理的なものでなければなりません。

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反社条項(暴排条項)は属性要件だけでは不足。行為要件を加える必要性。

平成23年10月1日、東京都、沖縄県でも、暴力団排除条例が施行され、全都道府県で施行されることになりました。既に、契約書で暴力団関係者であると分かった場合は契約を一方的に終了することができるとする暴排条項を設ける例が既に多数あります。しかし、取引の相手方が暴力団のフロント企業だった場合にも、相手が自らフロント企業だということを認めることはありません。

こうした場合、属性要件だけでは十分な対処が行えません。そのため必要な要件が、行為要件なのです。暴排条項のモデル文例を下に掲げます。

甲は、乙が下記要件2に該当すると判断した場合、または、乙が要件2に該当する行為を行った場合は、本契約を一方的に終了することができるものとする。

要件1.【乙が次のいずれかに該当すると判断した場合】

  • 暴力団
  • 暴力団員
  • 暴力団準構成員
  • 暴力団関係企業
  • 総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等
  • その他前各号に準ずる者

要件2.【乙が、自らまたは第三者を利用して次の各号に該当する行為をした場合】

  • 暴力的な要求行為
  • 取引に関して、脅迫的な言動をし、暴力を用いる行為
  • 風説を流布し、偽計を用いまたは威力を用いて甲の信用を毀損し、または当甲の業務を妨害する行為
  • その他前各号に準ずる行為

所有権留保条項、所有権の移転時期に関する規定はありますか

通常代金支払日に所有権が移転すると規定するのが普通です。但し、危険物の場合、早く管理責任から免れるため、引渡時とすることもありえるでしょう。

相殺予約条項をご存じですか?

弁済期の到来に関係なく相殺できるよう規定するものです。もっとも、実際に相殺するには相殺の意思表示が必要です。相手方の危機時には、同一債権についての債権譲渡が複数なされる可能性がありますので、後日自社が一番先に通知したことを証明するために、内容証明で通知する必要があります。

ライセンスを供与する場合、チェンジ・オブ・コントロール条項をつけていますか?

取引先とのライセンス契約や代理店契約においては、「チェンジ・オブ・コントロール条項(資本拘束条項)」を設けることも考えられます。「主要株主の変更、経営陣の退陣」「合併、組織変更、会社分割、株式交換もしくは株式移転、その営業または資産の全部もしくは一部の第三者への譲渡(セールアンドリースバックのための譲渡を含む。)」「第三者の重要な営業もしくは資産の全部または一部の譲受」があった場合、本契約を終了するといった条項です。

相手方にM&A等で経営権の移動(主要株主の交代等)があった場合、こちら側が了承しない限りはライセンス契約や代理店契約が無効となることになります。

逆にこちらが買収する際に、対象会社が取引先とチェンジ・オブ・コントロール条項を含む契約を締結していないか確認する必要があります。

英文と邦文の両方で契約書を作る場合どこに注意しますか?

契約解釈の準拠法、裁判管轄を決めておく必要があります。同じ契約内容を、英文契約書と邦文契約書とで重ねて作成する場合がありますが、翻訳が間違っていたり、不十分だったりして、契約内容に争いが生じる可能性があります。そうした場合に備えて、「邦文契約書と英文契約書の内容が一致しないときは、邦文契約書の内容をもって本契約の内容とする」旨規定しておくべきでしょう。

仲裁条項

契約上トラブルがあった場合、仲裁手続きにより解決をするよう条項をつけることが可能です。判決は国内では執行できますが、海外で執行するのは大変です。条項は、例えば、次のようになります。

「この契約からまたはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、東京において仲裁により最終的に解決されるものとする。」

どこの国の仲裁協会によるべきかですが、中立的な規定ということで、相手方の国での仲裁によると定めることがよくあります。

これについては、日本企業と外国企業との間でトラブルが発生したという場合、外国の仲裁協会は自国企業に有利に動くため、結果として不公平となってしまう場合があります。新興国はそのような傾向があり、中国、韓国といった国も自国有利に傾きがちと言われています。

では、東京とか、シンガポール、米国等第三国で仲裁するようにした方がいいかというと、そうも言いきれません。第三国の仲裁結果をもとに、いざ当該国で強制執行しようと思っても、承認判決が改めて必要になったりと、手続上難しいこともあるからです。

そのため、強制執行も考えるのであれば、当該国で裁判するいう選択肢もあります。中国の中でも、北京、上海では、裁判官も割合公平に判断してくれるため、北京、上海で契約を締結し(無関係な土地の裁判所を合意管轄裁判所とはできないが、契約締結地であれば可能)、同市の裁判所を合意管轄裁判所とすることも行われているようです。人民法院は基層、中級、高級、最高の4段階に分かれていますが、「北京市高級人民法院が第1審の管轄権を有する」と規定しても、訴訟物の価格でどの裁判所になるかが決まるため、訴訟物の価格を無視してそのような定めをしても無効となってしまいます。

しかし、より重要なのは仲裁に頼ることのないよう、代金を前払いで受けたり、L/Cを使う等して回収を確実にすることです。

ウイーン売買条約の排除

同条約は、2009年8月1日、日本でも発効しました。

当事者の営業所が異なる国にあれば、当該契約は国際的取引とみなされ本条約が適用されます。但し、あなたが輸出企業の場合は、ウィーン条約を適用しないこととする条項を入れた方がいいでしょう。商法526条2項は売買のクレーム期間を6か月としていますが、ウィーン売買条約でのクレーム期間は「物品の引渡しから2年間」となっており、断然買主に有利になっているからです。現在の実務では、ほとんどの国際取引の契約書では、ウイーン売買条約の適用を排除しているのが実情です。

では「日本法を適用する」としておけば、大丈夫でしょうか。これがダメなのです。単に、別途準拠法を定めただけでは、原則的には、ウィーン売買条約が優先されることになります。売買契約において明示的に同条約を排除する文言を規定しておかなければならないのです。

インコタームズ

インコタームズに従う旨の文言が契約書に書いても、それだけでは足りません。インコタームズは再々改定されているため、「インコタームズ2010を適用する」と、何年版を適用するかを記載しておくべきです。

引渡条件には注意が必要です。ばら積み船で送る場合はともかく、コンテナ船で運ぶ場合、物流業者の保税倉庫で渡すFCAや、物流業者の車両で引き渡すCPT、CITにし、FOBにしない方がいいでしょう。震災では、津波が来て、コンテナが海水に浸かったり、海に流されたりしました。その場合リスクを負うのは、FCA、CPT、CITであれば買主、FOBであれば売主です。船側からで船甲板に移動する際落下させた場合も同様の問題を生じます(途上国では、ガントリークレーンではなく、人力で運ぶため落下の危険性が高くなっています)。

しかも売主が入る保険は外航貨物海上保険ですが、この保険は天災による損害は保証しないため、上記のうち天災による場合は、保険金も支払われません。

合意管轄を特定の裁判所にしていますか?

相手の本店所在地とした場合、相手の本店所在地の移転リスクを負うことになりますので、具体的に●地方裁判所ないし●簡易裁判所と指定したほうがよいでしょう。

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