刑事弁護人の役割

2014年5月3日に文化放送「くにまるジャパン」に出演した際に話した内容を掲載しています。 テーマは「刑事弁護人の役割」についてです。

パーソナリティ
先週、このコーナーの後、パソコン遠隔操作事件の被告が 一連の事件に対する関与を認めたという速報が入りました。
弁護士
あまりの急展開なので、私たちも驚きましたね。
無罪を主張して、保釈された被告が、河川敷にスマホを埋め、自作自演の「真犯人メール」を送っていたということで、それまでと180度方針を変えて「自分が真犯人だ」と認め、先日行われた裁判でも無罪の主張を撤回し、全面的に起訴内容を認めています。
パーソナリティ
この事件、弁護士としてどこに注目していましたか?
弁護士
個人的には、自作自演メールが出てくる前の状況で、果たして検察側が、被告が犯罪を犯したと疑うに足る証拠を出せるのか、そしてそれを裁判所が認めるのか…というところに注目していました。
パーソナリティ
「検察側の証拠」に注目していたと。
弁護士
はい。なぜかというと、刑事事件における弁護士の役割と関係があるからです。
刑事事件の大原則に、検察側が「被告人が罪を犯したこと」を合理的な疑いを入れないまでに立証しない限り、被告人は無罪…という「無罪の推定」があります。そして裁判で有罪の立証をする責任は、検察側にあります。
パーソナリティ
検察側の立証で、有罪判決が出るまでは「無罪」なんですね。
弁護士
そうです。逆に言えば、刑事事件では、弁護士側には、積極的に真実を証明することは要求されていません。弁護士の役割は、検察側の立証に対して、「証明が疑わしい」とか「真偽不明」であるということを証明していくことです。
パーソナリティ
検察側が立証したことに反論するスタンスですね。
弁護士
はい。ですから、裁判の仕組み上、弁護士には、検察側が主張していないことまで先回りして、真実をすべて証明することまでは要求されていません。
パーソナリティ
どういう理由からなんでしょう?
弁護士
「検察側は国家権力に基づく強大な捜査力を持っています。一方、弁護士はあくまで一個人。力の差は歴然としています。ですから検察側に立証責任が課せられているのです。
パーソナリティ
そうなると、裁判で検察側が有罪を立証できなければ?
弁護士
無罪の推定の原則から「疑わしきは罰せず」となり、裁判所は無罪判決を出すしかありません。
このような裁判の仕組みから見れば、刑事裁判は、神様の眼から見たような「絶対的な真実」を見つけるものではなく「限りなく真相に近い事実」を追求するものといえます。
パーソナリティ
可能な限り真相解明に向けて努力してもグレーな場合は現行の裁判の仕組み上、無罪にするしかない、ということですね。
弁護士
はい。グレーなものを有罪にすると、冤罪につながる可能性があります。刑事事件では、あくまで推定無罪が原則。刑事裁判の原則や弁護士の役割を考える上でも、今回の事件はきわめて興味深いものだったと思います。
パーソナリティ
今回は実際に冤罪が続いて、今回の被告も冤罪じゃないか、と言われていましたよね。裁判の仕組みと、検察、弁護士の役割をあらためて考えさせられる事件でしたね。
「なんで悪者の弁護をするの?」という疑問が寄せられることもありますが、弁護士の役割があるということです。

この記事に関する法律サービス

ホームワンの刑事弁護