文化放送『くにまる食堂』に笹森麻美弁護士が出演/696回テーマ 「服務規程とハラスメント」編
2022年08月30日
弁護士法人 法律事務所ホームワン
弁護士の笹森です。
今回は、以前、ニュースなどでも取り上げられていた職員への服務ルールが、時代遅れではないかと問題になった件について、お話してきました。まず、この問題は、愛媛県松山市役所で職員に対し「勤務中の身だしなみモデル」という貼り紙が役所内に張り出され、この内容が実に細かいと、議会で取り上げられたものです。具体的には、以下のような内容が書かれていたようです。
①マニキュアなどは透明または透明に近い色
②髪を意図的に染めることは不可、白髪染めは地毛の色
③ネクタイ着用時のシャツは第一ボタンまで留める
④ミニスカートは不可
⑤装飾品は結婚指輪のみ
そこで、ある市議会議員が、この「身だしなみモデル」は、「社会の流れに抵抗するかのような、悪しき昭和の臭いがしてならない、この規定はハラスメントではないのか」と議会で取り上げました。それに対し、市の総務部長は「身だしなみとは接する相手に不快感を与えないことを第一に考えた身なりのことで、重要な接遇マナーの一つ。ハラスメントではなく、見直しは考えていない」と答弁しました。
服務規定は、企業が企業秩序を保つための一つの手段です。そして企業秩序を保つため、労働者に指示・命令できる権限は、使用者の広範な裁量に委ねられています。企業と労働者が労働契約を締結すると、労働者は、使用者に対し労務提供義務と、企業秩序を順守する義務も負うことになります。つまり、原則として従業員は服務規程に従う必要がありますが、業務上の必要性や合理性があるのか、という観点から例外的に違法と判断されることもあります。
具体的なケースとして、ハイヤー運転手の服務規程にあった「ヒゲを剃ること」の項目が問題になったことがありますが、裁判所はこの規定に関して業務上の必要性を一定程度は認めましたが、ヒゲと運転はあまり関係ない側面もあります。そこで既定の対象となるのは 「無精ヒゲ」や「異様、奇異なヒゲ」を指す、と限定解釈し、格別の不快感や嫌悪の感情をかきたてる形状ではないヒゲは「ヒゲを剃ること」の規律に当たらないとして、「ヒゲを剃れ」という業務命令に従う義務はない、と判断しています。
また、男性職員の長髪・ヒゲはNGという郵便局の「身だしなみ基準」が問題になったケースもありました。「身だしなみ基準」自体はイメージ向上が目的の企業努力の一環ですから、一定の合理性は認められる。ただ、顧客は通常の礼儀正しい応対を期待しているが、特別な身なりを整えての対応までは予定していない…として、長髪・ヒゲの一律不可は過度な制限と判断、「身だしなみ基準」は「顧客に不快感を与えるようなヒゲ及び長髪は不可とする」との内容に限定して適用されるべき、ということになりました。
企業はイメージや価値の維持・向上のため、労働者に対して様々な服務規程を設定します。でも今のお話のように、個人の自由と衝突する場合も多いので、注意が必要です。
◇日時
毎週火曜 11:31~
◇放送局
文化放送
◇番組名
『くにまる食堂』
◇コーナー名
「日替わりランチ ホームワン法律相談室」
◇696回テーマ
「服務規程とハラスメント」
◇出演
番組パーソナリティ 野村邦丸さん
法律事務所ホームワン 笹森麻美弁護士