文化放送『くにまる食堂』に中原俊明代表弁護士が出演/690回テーマ 「刑法改正で懲役刑がなくなる!?」編

2022年07月19日
弁護士法人 法律事務所ホームワン

弁護士の中原です。

今回は、刑法の改正について話をしてきました。先週も、インターネット関連の話題で、刑法が改正され、誹謗中傷に対する侮辱罪が厳罰化されたとお伝えしました。これまで侮辱罪の刑罰として定められていたのは、「拘留」と「科料」でした。拘留は人を「拘束」し「留め」ておくという意味、科料は「科(とが)」の「料金」として、お金を払ってもらいます、という意味です。

拘留と科料とは別に、懲役や罰金もありますが、懲役と拘留の違いは、簡単に言えば、刑の長さです。拘留は1日以上30日未満、懲役は1か月以上、それぞれ刑事施設に収容するという刑のことです。

同じように、科料と罰金も金額で線引きができます。科料は1000円以上1万円未満、罰金は1万円以上です。つまり侮辱罪は、これまでは、せいぜいひと月施設に収容されるか、数千円のお金を納めれば良かったということになりますが、今回の改正で刑が重くなり、1年以下の懲役や禁錮、30万円以下の罰金も適用されます。簡単に整理すると、施設に収容される期間では最大12倍、金額では最大30倍、重くなったということになります。

それ以外にも、今回の刑法改正では、大きな変更があり、懲役刑と禁錮刑をまとめて「拘禁刑」という刑罰に一本化することになったのです。
  
そもそも懲役と禁錮の違いを説明すると、両方とも刑務所に収容されるのは同じですが、刑務作業、いわゆる労働のような作業をさせるかどうか、が違います。懲役は働かされますが、禁錮はその必要がありませんでした。新しい「拘禁」では、刑務作業は「行わせることができる」と  いうことになっていて、2025年に施行の見込みです。

なぜ、統一されることになったのかというと、ひとつは、実際の刑務所では、懲役の受刑者が圧倒的に多いことです。2020年の数字では、禁錮刑はわずか0.3%に留まり、そして、更にそのうち8割の受刑者は、自ら希望して刑務作業をしています。そのため、本来の禁錮刑に服す受刑者は0.06%しかいないということになります。ほかにも、受刑者の高齢化も問題になっています。身体能力や認知能力の衰えから、刑務作業を行わせること自体が難しいケースが増えています。他方、若い受刑者についても、刑務作業に時間を取られるので、再犯防止や社会復帰のための教育を行なう時間がとりにくい。その結果、出所後、再び罪を犯して刑務所に逆戻り、という受刑者が多いのです。様々な理由から、刑務作業の柔軟化が求められていた訳なのです。

懲役刑と禁錮刑が定められたのは1907年、明治40年です。115年も経過して、社会環境もまったく違ってきています。刑罰のあり方を考えるのはとても難しいことですが、今後も、  犯罪の少ない安全な社会に向け、議論を深めていくことが、とても大切だと思います。

◇日時
 毎週火曜 11:31~
◇放送局
 文化放送
◇番組名
 『くにまる食堂』
◇コーナー名
 「日替わりランチ ホームワン法律相談室」
◇690回テーマ
「刑法改正で懲役刑がなくなる!?」
◇出演
 番組パーソナリティ 野村邦丸さん
 法律事務所ホームワン 中原俊明弁護士