文化放送『くにまる食堂』に笹森麻美弁護士が出演/681回テーマ 「出張費等不正受給と懲戒解雇」編

2022年05月17日
弁護士法人 法律事務所ホームワン

弁護士の笹森です。

今回の『くにまる食堂・日替わりランチ ホームワン法律相談室』では、「出張費不正受給と懲戒解雇」というテーマでお話してきました。

ある会社の従業員が、年間100回以上、社用車で出張していたにも関わらず、「公共交通機関を利用」と嘘をついて出張費を請求し、およそ50万円を受け取った上、さらに私用で使うクオカード代を宿泊費に上乗せしていたということがありました。このケースの場合、実際に懲戒解雇に当たるでしょうか?

出張費や宿泊費をごまかすのは、詐欺罪にあたります。しかし、詐欺罪だからといって、イコール懲戒解雇となるのかというと、実はそうではありません。上記の案件でも、  地方裁判所では懲戒解雇を有効と判断しましたが、高等裁判所では懲戒解雇が無効、従業員の逆転勝訴となったのです。

懲戒解雇は、法律的には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上、これは懲戒解雇されても仕方ない、という場合に限り有効となる、と定義されています。まず出張費や宿泊費の不正受給が客観的に合理的な理由になるか、という点については、具体的には、会社の就業規則の「懲戒解雇事由」に該当するかどうかが問題となってきます。先ほどのケースでは、架空請求・水増し請求は詐欺罪に該当し、十分懲戒事由となる、と、地裁でも高裁でも判断されました。問題となったのは、次の「社会通念上、相当といえるか」というポイントだったのです。

懲戒解雇の「懲戒」は、罰を与えるという意味です。従業員に対する罰は、降格、減給給料カット、停職などありますが、解雇、クビはその中でもいちばん重いもの。それが妥当かどうか、という話です。地方裁判所では、従業員が故意に出張費などをごまかし、  回数も年間100回以上と常習性があり、金額も50万と高額であったことから、会社としても見逃せないため、解雇もやむなしと判断しました。

しかし、高等裁判所では、その判断が覆ることになりましたが、実は不正受給した現金は、出張先で会社関係者との懇親会など、「業務の延長」で使われていたこと、また同じ様な地位にあった複数の従業員に同じような不正が多くあり、会社側の管理もずさんで、悪質性が顕著とはいえないと判断されたのです。もちろん一般的には、従業員が会社経費を不正に受給した場合、懲戒解雇が有効になることが多いです。このケースでは、  高等裁判所で逆転がありましたが、同じような事実に対しても、それをどう評価するかで判断が分かれることがあるわけです。

今回のケースでは、弁護士の手腕がなければ高裁の逆転はなかったと思いますが、逆に会社側、経営側としても、同様のケースがあったときのために、就業規則などの見直しなど、対策を講じる必要性がないか、いろいろと考えさせられる案件でした。

ホームワンでは、会社側からのご相談を受け付けしております。就業規則の見直しを始め、様々なトラブルについてもお伺いしておりますので、お困りのことがあれば、是非ともご相談ください。

◇日時
 毎週火曜 11:31~
◇放送局
 文化放送
◇番組名
 『くにまる食堂』
◇コーナー名
 「日替わりランチ ホームワン法律相談室」
◇681回テーマ
「出張費等不正受給と懲戒解雇」
◇出演
 番組パーソナリティ 野村邦丸さん
 法律事務所ホームワン 笹森麻美弁護士