文化放送『くにまるジャパン 極』に笹森麻美弁護士が出演/673回テーマ 「退職時の引き継ぎ拒否」編

2022年03月15日
弁護士法人 法律事務所ホームワン

弁護士の笹森です。

今週は、中小企業関連のお話で「退職時の引き継ぎ拒否」について話しをしてきました。

残念ながら「辞めたあとのことなど知らない」と無責任な考えをもった方が多いのが事実で、従業員が会社を辞める時に業務の引き継ぎを拒否したり「今日で辞めます!」と急に言い出し、それ以来、会社に現れず、現場が困り果ててしまうことが多くあり、そのことで頭を抱えている経営者の方は少なくありません。本来、退職届は提出後2週間経たないと退職が認められません。また多くの会社では、就業規則で「退職する30日前に、退職する旨を使用者に申し出て承諾を得なければならない」といった退職予告期間を決めていたりします。しかし、規定を守らず、急に「辞めます」と言ってきた場合でも、2週間が過ぎると退職の効果が生じてしまうことがあります。

急に退職されてしまうと、会社としては、引き継ぎもできず、人員補充もすぐには間に合わなくて、会社が損害を被るケースもよくありますが、辞めた従業員に損害賠償請求をしても、認められる可能性はほとんどないのです。その理由として、損害賠償を実現させるには、引き継ぎ拒否をした従業員に対し、「会社に被害が生じた事実」「どれくらいの損害が生じたか」「その損害が当該従業員の引き継ぎ拒否に基づくものであること」などを、会社の側がすべて立証しなければならず、非常にハードルが高いためです。それでも、認められるケースも二つほど考えることはできると思います。

まず、引き継ぎがなされなかった業務についての情報を、辞めた従業員が独占していて、本人もそれを認識していた場合。また、緊急性がある案件だったのに、引き継ぎせずに辞めて、かつ、辞めたことに正当な理由がない場合。これらのケースは、立証次第では損害賠償が認められる可能性があると思います。

退職前に有給休暇を消化する方は多くいると思いますが、有給休暇は従業員の大切な権利です。会社側としては、業務が忙しかったりする場合には、ほかの時期にずらしてほしい、と従業員に頼むこともできますが、退職前だとそれも難しいので、なんとか引継ぎをしてから退職してほしい、とお願いベースで持ち掛けるしかないのが現状です。

会社としては、引継ぎしてからではないと、休暇など取らせない、退職させない、と言いたいところですが、従業員には職業選択の自由の一環として退職の自由が憲法で保証されていますので、それは不可能です。経営側の防御策としては、就業規則に「従業員は30日前に退職意思を申告すること」という規定を設けることで多くの方はこれを守りますから、抑止力にはなります。

ただ2週間で退職の効果が生じてしまう場合もありますから、退職時の引継ぎ義務も就業規則に盛り込んで、違反の場合は懲戒事由となる、としておくのも引継ぎを促す効果があります。結局は経営側と従業員の日ごろのコミュニケーションがきちんとできているかに尽きると思います。私が関わってきた会社でも、風通しが良ければ良いほど、引継ぎトラブルは少ないです。

ホームワンでは、中小企業の皆様からの経営支援なども行っています。悩み事をお持ちの方、どうぞ気軽にご相談ください。

◇日時
 毎週火曜 9:45~
◇放送局
 文化放送
◇番組名
 『くにまるジャパン極』
◇コーナー名
 「得々情報 暮らしインフォメーション ホームワン法律相談室」
◇673回テーマ
「退職時の引き継ぎ拒否」
◇出演
 番組パーソナリティ 野村邦丸さん
 番組火曜日パートナー 西川文野さん
 法律事務所ホームワン 笹森麻美弁護士