文化放送『くにまるジャパン 極』に山田冬樹代表弁護士が出演/634回テーマ 「給与のデジタル払い」編

2021年06月08日
弁護士法人 法律事務所ホームワン

弁護士の山田です。

今週の『くにまるジャパン極』では、「給与のデジタル払い」をテーマにお話しました。
「給与のデジタル払い」とは,給料を、銀行を介さず、最近人気の「なんとかペイ」といったキャッシュレス決済口座に振り込むことをいいますが, 現在,導入を巡って議論がされています。

なぜ,すぐに実施できないかというと,給与の払い方は,法律で定められているのです。
労働基準法では,「給与(賃金)は通貨で、直接労働者にその全額を支払わなければならず、かつ、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わねばならない」と決められています。これは、雇い主に給与を確実に支払わせて、労働者の生活を安定させるための原則ですが、ポイントは最初の「通貨で」というところ、給与は現金で払わなければならないとしているのです。
実際は,現金支給されている方よりも,銀行振り込みの方のほうが多いとは思いますが,労働基準法には「法令が定める確実な支払の方法であれば、通貨以外のもので給与を支払うこともできる」という定めもあり,銀行振り込みはこの例外に当たるので問題はありません。銀行振り込みは,現金支給に比べ,紛失や盗難の危険もないので、むしろ安全といえます。

給与のデジタル払いは、法令の改正が必要であることから,認めるのならどういう条件にすべきか、議論されているわけです。デジタル払いのメリットですが、「なんとかペイ」を使うキャッシュレス決済の場合、まずお金をチャージする必要があります。金融機関によっては口座と連携できず、チャージできないケースもあるんです。でもデジタル払いが認められれば、キャッシュレス決済口座に直接、給与が支払われますから、チャージの手間が省けます。もう1つの理由として、外国籍の方の場合、日本の銀行で口座を開設するより、キャッシュレス決済口座で受取る方が簡単でいいのではないか、という話もあるようです。

デジタル払いのデメリット、危険性として、万が一、「なんとかペイ」の運営会社がつぶれてしまった場合、口座の残高は全額戻ってくるのか、また、セキュリティの不備で第三者が不正に引き出す危険もあるのではないか、などが挙げられています。銀行とは規制する法律が違うので、実際に給与のデジタル化を進めるにあたり,安全性や補償などのレベルは、銀行口座と同等にすべきではないか,また、銀行と同じく、必要な場合はATMなどから現金を引き出せるようにすべき、という意見も出ています。

もし、デジタル払いが認められることになっても、現在の議論では、デジタル払いを新たな選択肢に加えるだけで、銀行振込のほうが良いという場合は,そちらも選べるなど,会社がデジタル払いを強制せず、労働者の自由意思に基づき、利用するかどうかを決められるようにすべき、とされています。デジタル払いが実現すれば便利さは増すでしょうが、デメリットもちゃんと見据えてベストな仕組みを作っていかなければいけません。

【出演情報】
◇日時
 毎週火曜 9:45~
◇放送局
 文化放送
◇番組名
 『くにまるジャパン極』
◇コーナー名
 「得々情報 暮らしインフォメーション ホームワン法律相談室」
◇634回テーマ
「給与のデジタル払い」
◇出演
 番組パーソナリティ 野村邦丸さん
 番組火曜日パートナー 西川文野さん
 法律事務所ホームワン 山田冬樹弁護士