文化放送『くにまるジャパン 極』に山田冬樹代表弁護士が出演/545回テーマ 「懲戒解雇と退職金」編

2019年09月20日
弁護士法人 法律事務所ホームワン

代表の山田です。

今週の『くにまるジャパン極』では、「懲戒解雇と退職金」というテーマでお話してきました。何かいけないコトをして懲戒解雇になったという場合でも、退職金は支給されるでしょうか。いろいろ考えるべき事はありますが、まず第一に、その会社に退職金制度がきちんと整備されているかどうかが問題となります。
小さい会社の場合、退職金制度自体が整備されておらず、誰か辞めるたびに、社長が「あいつは一生懸命だったから給料一年分出そう」とか、「全然働きが悪かったから、一か月分でいいや」というふうに、社長の腹一つで決まるなんてこともよくあります。この場合、退職金という確たる制度自体がないので、退職金を払えという権利自体がありません。
また、退職金制度が整備されている会社でも、大抵の場合、就業規則に「懲戒解雇の場合は支給しない」と定めてありますので、退職金が払われないということもあるでしょう。

ただ、懲戒解雇処分は簡単に認められるわけではないですし、懲戒解雇の場合でも、必ずしも退職金がゼロになるとは限りません。

なぜなら、退職金には「今までよく働いてくれました」という功労者に報いるという要素と、「賃金の後払い」という2つの要素があるからです。功労金という点を重く見れば、懲戒解雇された以上、退職金はもらえませんし、賃金の後払いという意味からすると、全く払わない訳にはいかないということになります。
裁判例を見ますと、会社に対して、規定の3割程度は払いなさいと命ずる判決が多いです。
なぜ3割程度になるかというと、自己都合の場合は規定の半額と定められているような会社が多いので、自己都合で退職した人とのバランスを考えているのもだと思われます。

実際の懲戒解雇の裁判例を見ていくと、例えば、鉄道会社の社員が、電車の中で痴漢行為をしたケースで、裁判所は懲戒解雇を認め、退職金の7割カットを認めています。犯罪とはいえ、私生活上の行為ですから、懲戒解雇が認められるとは限りませんが、今回のケースでは、鉄道会社は「痴漢は犯罪です」といったキャンペーンをやっていますから、鉄道会社の社員が痴漢というのは懲戒解雇もやむを得ないという判断でしょう。

3割以上貰えた例としては、お店の店長が、店の中で不明金が出ても会社に報告しないで、自分たちのポケットマネーで補填を繰り返していたケースがあります。そのようなルーズな措置が引き金になってか、あるとき38万円も不明金が出てしまい、どうしようもなくて会社に報告せざるを得なくなりました。懲戒解雇は認められましたが、目的は自分の利益を図ってした行為ではないからということで、自己都合退職と同様に、規定の半額の退職金が認められました。
また、逆にゼロにされたケースもあります。芸能関連の会社で、人気アイドルのコンサートチケットを、暴力団関係のダフ屋に売って15万円を懐に入れ、懲戒解雇になった社員の場合です。もし世間に知られたら、会社が社会から大きな避難を受けるという事情を考慮して、1500万円の退職金が全額認められなかったという例もあります。

さらに、1円も出ないどころか、逆にお金を会社に返せと言われた例もあります。この会社は、退職金制度の一端として、確定拠出型年金制度をとっていました。従業員はそれを年金として積み立てるか、積み立てないで受け取るかを選べましたが、問題の社員は積み立てず受け取る方を選択していました。懲戒解雇となったら、既に受け取った分は退職金前払い分だから、その7割を会社に返せ、と命じられた例もあります。
大切な退職金を失わないためには、身を慎んでいた方がいいということかと思います。

【出演情報】
◇日時
 毎週火曜 9:45~
◇放送局
 文化放送(関東エリア)
◇番組名
 『くにまるジャパン極』
◇コーナー名
 「得々情報 暮らしインフォメーション ホームワン法律相談室」
◇545回テーマ
 「懲戒解雇と退職金」
◇出演
 番組パーソナリティ 野村邦丸さん
 番組火曜日パートナー 西川文野さん
 法律事務所ホームワン 山田冬樹 代表弁護士