営業秘密従業員が営業秘密や情報を漏洩した場合の対応方法

不正競争防止法が営業秘密を保護

営業秘密は、不正競争防止法により民事上、刑事上保護されています。
民事上、差止請求権、損害賠償請求権、信用回復措置請求権が認められており、さらにこれらの民事訴訟手続きにおいても秘密保持命令、インカメラ審理、当事者尋問等の公開停止等を定め、手続過程で秘密が害されないように図られています。
また、営業秘密を不正取得した者、不正取得された営業秘密を使用・開示した者、従業員・退職者で任務に反して使用、開示した者等は、同法上営業秘密侵害罪として、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処せられます。また、刑事訴訟手続きの過程で営業秘密が害されないように諸規定が設けられています。

「社外秘」のハンコを押すだけでは不十分

「社外秘」すなわち「社内」なら「オープン」ということでは、営業秘密として保護はされません。不正競争防止法上、営業秘密として保護されるためには、

  • 秘密管理性
  • 有用性
  • 非公知性

の3要件が必要です(2条6項)。

秘密管理性

秘密管理性有りというためには、(1)その情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)と、(2)アクセスした者が秘密であると認識できること(客観的認識可能性)が必要です(東京地裁判決平成12年9月28日判例時報1764号104頁等)。社内オープンということではアクセス制限の要件が満たされません。

有用性

生産、販売、研究開発に役立つなど事業活動にとって有用なものであることが必要とされる。ただ、有用性は主観的なものでなく、客観的なものでなければなりません。直接ビジネスに活用されている情報に限らず、間接的な(潜在的な)価値がある場合も含みますので、ネガティブ・インフォメーション(失敗情報)、将来(遠い未来も含む)の事業に活用できる情報にも有用性が認められえます。

非公知性

当該情報が刊行物に記載されていないなど、会社の管理下以外では一般に入手できない状態にあることが必要です。同じ情報を保有している同業者がいても、業界で一般に知られていない場合には、非公知情報であると考えられます。

営業秘密侵害として民事的に保護されるためには

不正競争防止法では、2条1項4~9号において、営業秘密に係る以下の不正行為を列挙して、それらを「不正競争」と定義しています。 例えば、Aの営業秘密をBが取得、その営業秘密をBがCに、さらにCがDに伝えた場合、次の行為は不正競争となります。

  • Bが窃取・詐取(不正取得行為)
  • 不正取得したBが営業秘密を自ら使用、ないしCに開示
  • 2の場合でCが開示を受けた際、Bの不正取得につき悪意重過失だった
  • 2の場合でCが開示を受けた際、Bの不正取得につき善意無重過失だったが、その後Cが悪意重過失に転じ、営業秘密を自ら使用、ないし、Dに開示
  • Bが従業員、下請企業、ライセンシー等であり、正当に営業秘密を取得。しかしその後、図利加害目的で営業秘密を自ら使用、ないし、Dに開示(不正開示行為)。
  • Bの開示行為が不正開示であることにつき、Cが悪意重過失。
  • Bの開示行為が不正開示であることに、善意無重過失だったCが、その後悪意重過失に転じ、営業秘密を自ら使用し、または、Dに開示した。

なお、「悪意重過失」とは「あることを知っている、または、知らないことに重大な過失がある」こと、「善意無重過失」とは「ありことを知らず、かつ、知らないことに重大な過失がない」こと、「図利加害目的」とは「不正の利益を得る目的、または、営業秘密の保有者(帰属者)に損害を与える目的」を言います。

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不正競争行為への民事上の対抗措置

差止請求権(3条、15条)

「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれが生じたこと」を要件に、侵害の停止又は予防(3条1項)に加えて、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他侵害の停止又は予防に必要な行為(3条2項)を請求することができます。 なお、営業秘密に係る不正使用行為に対する差止請求権は、当該行為が継続する場合においては、当該行為及びその行為者を知ったときから3年の消滅時効と、当該行為の開始時から10年の除斥期間が設けられています。(15条)

損害賠償請求権(4~9条)

「故意又は過失」により「営業上の利益を侵害」されたことを要件に、損害賠償を求めることができます。
損害賠償の請求を行う場合、損害額はその請求を行う被害者側が立証しなければなりませんが、営業秘密に係る不正競争の場合、侵害した者が営業秘密侵害行為を通じて得た利益の額を立証すれば、その利益の額が被害者の損害額と推定されることになっています。(5条2項)

信用回復措置請求権(14条)

「故意又は過失」により信用を害された場合は、謝罪広告等の営業上の信用を回復するのに必要な措置を求めることができます。

民事訴訟上の営業秘密保護

秘密保持命令(10~12条))

裁判所は、訴訟の当事者等に対し、準備書面又は証拠に含まれる営業秘密を使用し、又は開示してはならない旨を命ずることができる。(秘密保持命令)
秘密保持命令に違反して営業秘密を使用し、又は開示した場合には、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金(またはその両方)が科される。

書類の提出等(インカメラ審理)(7条2項、3項)

裁判所から必要な書類の提出を求められた場合、その書類の所持者は、正当な理由がある場合には提出を拒否することができる。この「正当な理由」に該当するか否かについては、訴訟の当事者や訴訟代理人等にのみに書類を開示した上で意見を聴き(いわゆるインカメラ審理)、裁判所が判断することとなっている。

営業秘密が問題となる訴訟における公開停止(13条)

営業秘密侵害に係る訴訟については、営業秘密に該当するものについて当事者等が当事者本人又は証人等として尋問を受ける場合には、裁判官の全員一致により、当該事項の尋問の公開を停止することができる。

営業秘密侵害罪(21条)

不正競争防止法は、営業秘密の不正取得・領得・不正使用・不正開示のうち、一定の行為について、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金(又はその両方)を科すこととしています(営業秘密侵害罪)。

  • 図利加害目的で、詐欺等行為又は管理侵害行為によって、営業秘密を不正に取得する行為(1号)
  • 不正に取得した営業秘密を、図利加害目的で、使用又は開示する行為(2号)
  • 営業秘密を保有者から示された者が、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、(イ)媒体等の横領、(ロ)複製の作成、(ハ)消去義務違反+仮装、のいずれかの方法により営業秘密を領得する行為(3号)
  • 営業秘密を保有者から示された者が、第3号の方法によって領得した営業秘密を、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、使用又は開示する行為(4号)
  • 営業秘密を保有者から示された現職の役員又は従業者が、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、営業秘密を使用又は開示する行為(5号)
  • 営業秘密を保有者から示された退職者が、図利加害目的で、在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いて営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受け、退職後に使用又は開示する行為(6号)
  • 図利加害目的で、上記2、4、5、6項の罪に当たる開示によって取得した営業秘密を、使用又は開示する行為(7号)

日本国内で管理されている営業秘密については、日本国外で不正に使用・開示した場合についても処罰の対象となります。
いずれの行為も、図利加害目的で行う行為が刑事罰の対象であり、報道、内部告発の目的で行う行為は処罰の対象とはなりません。
なお、営業秘密侵害罪は、犯罪被害者保護の見地から、親告罪(被害者による告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪)とされています。
また、営業秘密侵害罪に係る刑事訴訟において、営業秘密の内容が公開の法廷で明らかにされてしまうことを防ぐために、秘匿決定や、公判期日外の証人尋問などの制度が特別に設けられています。

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秘密管理性

営業秘密の要件で、企業が最も注意しなければならないのが秘密管理性の要件です。裁判例を見ると、秘密管理性が認められるためには、次の要件が必要とされています。

  • 情報の秘密保持のために必要な管理をしていること(アクセス制限の存在)
  • アクセスした者にそれが秘密であることが認識できるようにされていること(客観的認識可能性の存在)

さらに、全般的な傾向として、以下の三点に着目しています。

  • アクセスできる者が限定され、権限のない者によるアクセスを防ぐような手段が取られている(アクセス権者の限定・無権限者によるアクセスの防止)
  • アクセスした者が、管理の対象となっている情報をそれと認識し、またアクセス権限のある者がそれを秘密として管理することに関する意識を持ち、責務を果たすような状況になっている(秘密であることの表示・秘密保持義務等)
  • それらが機能するように組織として何らかの仕組みを持っている(組織的管理)具体的には次の管理方法が指摘されています。なるべく以下の管理方法を実践すべきですが、その全てを実践しなければ営業秘密として保護されない訳ではありません。

【Aについて】

  • アクセス権者の限定
  • 施錠されている保管室への保管
  • 事務所内への外部者の入室の禁止
  • 電子データの複製等の制限
  • コンピュータへの外部者のアクセス防止措置
  • システムの外部ネットワークからの遮断

【Bについて】

  • 「秘」の印の押印
  • 社員が秘密管理の責務を認知するための教育の実施
  • 就業規則や誓約書・秘密保持契約による秘密保持義務の設定等

【Cについて】

  • 情報の扱いに関する上位者の判断を求めるシステムの存在
  • 外部からのアクセスに関する応答に関する周到な手順の設定

就業規則・秘密管理規定等の定め方

もっとも望ましいのは、従業者等が秘密保持義務を負うべき情報を個別的・具体的に指定していることです。具体的には「顧客情報(氏名、住所、性別、年齢等)」、「自社商品の原価情報」などです。
次善の策としては、従業者等が秘密保持義務を負うべき情報を、ある程度概括的に指定したり、媒体や保管先・保管施設等によって指定したりすることです。例えば、「○○製品の△△に関するデータ」、「他社との共同研究開発に関する秘密情報」、「ラボノート○○に記載された情報」などです。「○○データベースに記録された情報」、「○○工場の△△室において得られた情報」という指定方法も考えられます。

組織的指定

組織的指定とは、営業秘密の指定・管理に関する規程又は管理基準を策定し、これに基づいた組織的な秘密指定プロセスによって、当該情報の秘密指定が行われていることを言います。
当該情報にアクセスできる者の範囲(役職、配属先、業務等)を規程等によって明確に指定している(規程等で責任者を明確にし、責任者が口頭又は書面によってアクセスできる者を明確にしている場合等も含む。)。
役員のみアクセスできる「極秘」、部配属者のみアクセスできる「部外秘」など、取り扱いを区別する方法もあります。

書面管理

以下の方法を検討しましょう。

  • 冊子、CDのケースに「秘」との表示を行う。
  • 秘密情報が記録された書類、記録媒体(当該書類等)を、その他のものとは分離して保管する。
  • 当該書類等の社外、部外持ち出しを禁止し、責任者による許可制にし、持ち出し簿を整備する。
  • 当該書類等を鍵付きの鞄で持ち運ぶ、記録媒体にはパスワードロックをする。
  • 複製を禁止し、責任者による許可制にし、複製記録を台帳管理する。
  • 当該書類等の廃棄については、シュレッダー、消去ソフト等を活用
  • 当該書類等の保管場所を施錠、入退室記録を作成。
  • パソコン毎にユーザーパスワードを設定、パスワードも定期的に変更する。

コンピュータ対策

以下の方法を検討しましょう。

  • 営業秘密を保存・管理しているコンピュータについて、外部からの侵入に対する防御等の対策を行う。
  • コンピュータを外部ネットワークと接続しない、ファイアウオールを導入する。
  • パスワードを活用し、閲覧制限措置を講じる。
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