企業法務コラム

【企業法務】事業承継税制の改正について

1月10日付の日経朝刊で、「企業倒産一転増加へ」との記事が出ています。激増というより微増といった感じですが、問題なのはその倒産理由。「赤字で借金が返せない」という理由より「後継者難」との理由での廃業が増えているのです。中小企業の代表者の高齢化が進む一方なのに対し、事業承継がうまく進んでいないのが、その理由です。

事業承継が進まない理由の大きな一つが、税金の問題です。現在役員をやっている自分の息子に会社を引き継がせようと、株式を贈与すると贈与税がかかりますし、相続させるにも相続税がかかります。

事業承継のための未上場株の贈与については、一定要件のもと、税金を猶予しようということで、年に事業承継税制というものができたのですが、使い勝手が悪く、利用が進みませんでした。しかし、昨年、この税制の中身が大きく変わり、使い勝手がかなり良くなりました。

まず要件の点です。
今までは、社長が自分の持っている株を、後継者一人に贈与するときにしか、この税制を使えませんでした。しかし、同族経営の会社で、古い会社ほど、奥さんや、お子さん全員とか、嫁さんとかに株を振り分けています。このように分散している株を、今役員をやっている長男に集中しようと思っても、贈与税の猶予が認められるのは社長の株だけで、奥さんや他のお子さんの株は対象になりませんでした。また、例えば、長女が専務、長男が常務という会社で、二人に振り分けようとしても、後継者一人に贈与する分にしか適用がありませんでした。昨年の改正で、社長と奥さんや他の子供達の株式を、長女と長男に贈与する場合にも適用が可能になったのです。
また、今までは猶予の対象は、株式全体の3分の2までという制約がありましたが、株式全部が対象になりました。相続税の猶予割合も80%だったのが、100%になりました。

それから、この制度は税金の免除ではなく、猶予です。
相続が発生してから、5年間従業員数が8割を割ると、猶予されていた税金のほか、それに利息も付けて返さなければなりませんでした。

例えば、今の御時世で、5年先と言えども、確実に業績を見通せるかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。そうすると、いざ業績が傾いて、従業員数が一時期でも8割割ってしまうかもしれないと考えると、中々この事業承継税制は選択できなかったのです。従業員が10人の会社を考えてみてください。そのうち3人が辞めてしまえば、税金を一括して支払えとなるわけですから、ちょっと怖くて利用できないですよね。しかし、この点も昨年改正され、5年間の平均で8割を割っても一定の手続きなどにより、継続することができます

また、会社の業績が悪化して、第三者に会社を買ってもらおうという場合も、猶予されていた税金が一括請求される仕組みになっていました。しかし、この点も改正されて、10億円の会社が1億円でしか売れなかったという場合、9億円の分については減免される(又は課税されない)ことになりました。

しかし、このように利用するための要件が緩和されたり、税金の一括払い要件が緩和されるためには、平成35年3月31日までに、会社が「経営革新等支援機関」の指導及び助言を受けて作成した「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。この「経営革新等支援機関」ですが、税理士、銀行員、経営コンサルタント等で、こういった資格を持っている人がいるので、こうした人から指導を受けて、事業計画書を作る必要があります。

ただ、事業承継を実行に移すとなった場合、相続全体のことも考える必要があります。株式が財産の殆どを占めるという場合、他の相続人にも、それぞれ相続分があるので、遺言書を書いて、後継者の取り分を多くして、他の相続人の方に払う補償金も用意する必要があります。社長が会社にお金を貸している場合、相続前にそれを清算しておく必要があります。そうしないと、社長が会社に対して持っていた貸付金が他の相続人のもとに行ってしまい、後継者が会社を継いだ早々、その返済を求められ、苦しい立場に置かれてしまいます。

法的なこと、税金のこと以上に大切なのは、社長さんが元気なうちに、後継者に少しずつ、社長の仕事を任せていくということです。取引もお互いの信用で成り立っていますから、いきなり息子さんが社長になったとしても、これまでどおり取引してもらえるか分かりません。価格交渉とかを、いきなり任されてもうまく行かず、相手の言いなりになってしまう可能性があります。従業員も、前の社長のことなら言うことを聞くけど、息子がいきなり社長になっても、何でもハイハイとは聞けないなぁなんてことがあります。ですから、社長が元気なうちに、バックについていて、従業員が息子さんの言うことを聞くようにうまく持っていく必要があります。

動き出すと、やらなければいけないことがたくさんあるので、時間的にも十分余裕をもって進めて行く必要があるのです。

2020年01月21日
法律事務所ホームワン