企業法務コラム

【企業法務】「虐待」告発者に賠償請求

知的障害者向けの就労支援施設を運営するNPO法人が,10月,女性元職員に約672万円の損害賠償請求を通知する内容証明郵便を送ったそうです。
同女性職員は,上司の男性職員が知的障害のある男性利用者2人の裸の写真を撮影し,無料通信アプリで送ってきたり,職場の共用パソコンに保存したりしていたため3月に市へ通報。市は施設へ監査に入り,虐待を認定,改善勧告を出しました。
このNPO法人は「他にも虐待があったと虚偽の説明をした」「外部からの業務受託の予定が取り消され,損害を受けた」として賠償を求めたとのことです。
(平成27年11月23日 日本経済新聞)

障害者虐待防止法16条は「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。」(同条1項)として通報義務を課するとともに,「障害者福祉施設従事者等は、第1項の規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。」(同条4項)としています。公益通報者保護法では,「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」に限り,行政機関に対する公益通報しても不利益処分を受けないとしている(3条2号,5条)のに比べ,要件が緩和されています。障害者に対する施設での虐待は密室的な環境で行われ,内部通報者がいない限り,発覚しないことから,このように不利益処分禁止の要件が緩和されていると言って良いでしょう。こうした法の趣旨からして,運営者側が裁判を起こしても,裁判所はその請求を認めないでしょう。しかし,運営者としては,見せしめにこのような多額の損害賠償請求をすることで,他の職員に内部告発をためらわせる効果が十分にあると考えたのでしょう。ただ,こうした対応は,職員の離職率を高め,却って経営にとってはマイナスになるものと思われます。そもそもこのような施設に預けようという人はいないでしょう。

2015年11月27日
法律事務所ホームワン