企業法務コラム

袖看板設置すべきか否か

2月15日、札幌市内の「札幌かに本家札幌駅前本店」で看板の一部が、ビルとの結合部が腐食して、その結果強風で落下、その直撃を受けた女性が意識不明の重体となるという痛ましい事件がありました。3月23日の日経の記事によれば、その女性は現在もなお意識不明の状態にあるといいます。看板は30年前に設置されたものでしたが、ビルオーナー企業は目視でしか点検していなかったといいます。同記事によれば、こうした看板の設置されている建物は7万5000棟もあるそうです。

民法717条には「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」とあります。

今回落下した看板は建物に設置されていたものですから「土地の工作物」に当たります。瑕疵とは「工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性状・設備を欠いていること」を言い、ビル看板は、通常予想される強風によっても落下しないことが「通常備えているべき安全性状」というべきですから、瑕疵があったといいうるでしょう。その看板の占有者はビルのオーナーですが、占有者が損害発生防止に必要な注意をしたときは、所有者が賠償責任を負います。そして、所有者は無過失を立証しても責任を免れないのだが、本件は占有者も所有者も「株式会社札幌かに本家」ですから、責任の逃れようがありません。

かに本家の看板は、縦長のもので、いわゆる袖看板といわれているものですが、繁華街やオフィス街で、多くのビルに取り付けられています。ビルのオーナーとしては、袖看板を設置することで、テナントから広告料をとれるため、そのまま設置しておきたいところですが、いざ落下した場合の賠償責任を考えると、割に合わないかもしれません。
そもそもこのような危険なものを設けるべきかどうか、そういって点からも論じられるべきでしょう。青山1丁目のホンダのビルは、オフィスビルなのに、バルコニーが設置されています。これは本田宗一郎氏が、地震の際、ガラスの破片が外の通路に落ちず、バルコニー内にとどまるように考えたのです。

そもそも、地震国日本にあって、こうした危険な存在でもある袖看板をもっと規制してもいいようにも思われます。

なお、こうした看板は、道路にせり出して設置されているため、道路占有料を徴収されます。占有料の単価は、自治体によって違い、千代田、中央、港等の都心8区では看板の表示面積1㎡当たり37,200円となっています。この場合の表示面積をどう算定するかですが、看板には裏表があるので片面が10㎡の場合、片側だけの面積では足りません。ただ、2倍というのもかわいそうに思ったのか、片側表示面積の1.5枚に単価を乗じることになっています。そうすると片側10㎡の袖看板は年558,000円の占有料がかかるのですが、結構なお値段です。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2015年03月30日
法律事務所ホームワン