企業法務コラム

内野席で打球直撃 失明女性に4190万円賠償判決

札幌ドームの内野席で、プロ野球観戦中にファウルボールが当たり右目を失明した30代の女性が、日本ハムファイターズなどに計4650万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、札幌地裁は3月26日、球団に4190万円の支払いを命じたそうです。なお同球団以外に球場の所有者の札幌市、管理会社の札幌ドームも被告になっていたそうです。裁判所は判決理由で、球場の内野席とグラウンド間のフェンスは高さ約2.9メートルで、その上に防球ネットなどがなかったことをあげて、「大型ビジョンなどで注意喚起するだけでは不十分。球場の設備は安全性を欠いていた。」と指摘したたのこと。
「防球ネットがなかったこと」が判決の理由の一つになっており、民法上の工作物責任があるとのことでしょう。球場の設置及び保存に瑕疵ある場合には、一時的に占有者たる札幌ドームが、同社に過失なきときは、所有者たる札幌市が賠償責任を負うことになります。おそらく裁判では次のような議論があったのでしょう。

原告:ライナー性の当たりの場合、真っすぐ観客席に飛び込んでくるので、危険極まりない。
被告:そういう危険があることは、常識であり、大型ビジョンでも打球に気をつけるよう再三警告をしている。
原告:観戦者の中には、硬球を触ったこともない者もいる。そうした者が打球の直撃で死にいたることは想定しておらず、そういった危険の存在することを伝えるべき。球場での警告は危険性をそこまで伝えていない。
被告:直撃で死にいたることまで警告しなくても、身体に危険のありうることを伝えれば警告としては十分。
原告:球場ではビールやつまみ等も販売しており、こうしたものを飲食する際、打球に注意が行かないことはありうる
被告:攻守交代等のときに飲食すれば問題ない。
原告:ゲーム中、ずっとゲームに集中すべきなど現実的ではない
被告:そういうことも含めて、自ら危険に接近した者は、自ら危険を避けるべきであり、観客の不注意を想定した設備にはできない。
原告:管理者は女性や子ども、家族連れでの野球観戦を勧誘しており、そうした未経験者の来場を想定した設備にすべき。
まぁこんなことが議論されたのだろう。

ところで、2005年12月、12球団は「試合観戦契約約款」を制定。そこでは、暴力団等の排除、入場券の許可のない転売の禁止、持込禁止物、グラウンドへの乱入・物の投げ入れ等の禁止等の規定が置かれたのだが、その中に次の規定がある。
第13条の第1項には「主催者及び球場管理者は、観客が被った以下の損害の賠償について責任を負わないものとする。但し、主催者若しくは主催者の職員等又は球場管理者の責めに帰すべき事由による場合はこの限りでない。」とあり、対象となる損害として「ホームラン・ボール、ファール・ボール、その他試合、ファンサービス行為又は練習行為に起因する損害 」が挙げられている。さらに、同条3項には、「観客は、練習中のボール、ホームラン・ボール、ファール・ボール、ファンサービスのために投げ入れられた ボール等の行方を常に注視し、自らが損害を被ることのないよう十分注意を払わなければならない。」と規定されている。
当然この規定も争点になったと思うが、新聞報道だけでは当該規定の扱い(第1項但書の適用如何、消費者契約法第8条の適用の可否が問題になろう)がどうなったのか不明である。
ところで、日本ハムは賠償責任を負ったのだろうか。日経の記事の見出しには「球団側に4190万円賠償命令」とあり、球団にも賠償が命じられたように報道されているが、果たしてどうであろう。日本ハムのバッターが内野席に打球を打ちこんでも、元々野球がそういう競技なのだから、不法行為責任は問えないとの判断になりそうなだけに興味が持たれます。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2015年03月30日
法律事務所ホームワン