企業法務コラム

最高裁セクハラ訴訟 管理職2名が全面敗訴(評)

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(評)
この判決のどこの部分が興味を惹くかは、人によってことなるであろうが、私が興味を持ったのは以下の2点。

この勤務先は「セクシュアルハラスメントは許しません!!」と題する文書を従業員に交付し、その中で禁止行為を具体的に述べ、セクハラの行為者に対しては、行為の具体的態様、当事者同士の関係、被害者の対応、心情等を総合的に判断して処分を決定すると書いていた。そして同社の就業規則4条(5)には、服務規律として「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」を禁止し、「服務規律にしばしば違反したとき」は、減給又は出勤停止に処することもある旨が規定されていた。最高裁は、勤務先はこのセクハラ禁止文書を、就業規則4条(5)に該当するセクハラ行為の内容を明確にするものと位置付けていた、と認定。セクハラ禁止規定の有用性と、これを実効性あらしめるためには、禁止文書の中に懲戒処分のことも織り込んでおくべき、ということが改めて分かった。

もう一点は、「原審は、被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして、これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して,加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや、上記(1)のような本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような事情があったとしても,そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではない」と判断したことである。セクハラの被害者は、自分が上司のセクハラを拒否することで、会社に居づらくなることを恐れ、迎合的な態度をとりがちである。最高裁は、その点を捉えて、被害者が拒否しなかったことはセクハラを否定する理由にならないと、この管理職の心得違いを厳しく断じたのである。このあたりは、ドキッとした男性もいるのではないか。事務所の中で、猥談に興じることが、コミュニケーションの一つだと思っているオジサンたちは十分注意した方が良い。

ちなみに、どういうセクハラ行為があったかだが、最高裁は法解釈をするところで、事実を認定するところではないので、詳しい事実は分からないが、次のような行為があったようだ。

被上告人X1は,営業部サービスチームの責任者の立場にありながら,別紙1のとおり,従業員Aが精算室において1人で勤務している際に,同人に対し,自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器,性欲等について殊更に具体的な話をするなど,極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり,また,被上告人X2は,前記2(5)のとおり上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず,別紙2のとおり,従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し,派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。このように,同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し,被上告人らが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は,いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので,職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって,その執務環境を著しく害するものであったというべきであり,当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。

身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、発言の中に人格を否定するようなものを含み、かつ継続してなされた場合は、心理的負荷を「強」と評価され、これが原因で精神障害を起こした場合は労災認定を受けることとする「心理的負荷による精神障害の認定基準」にも、十分留意すべきだろう。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2015年03月02日
法律事務所ホームワン