群馬大学病院腹腔鏡手術死亡事故 弁護団結成される(評)

2015年02月12日
法律事務所ホームワン

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(評)
医療過誤は通常、個々の医師の過失が問題とされますが、本件は、病院の管理体制が問題視されている点に特殊性があります。
通常、難易度の高い保険外診療を実施するには、倫理委員会、倫理審査委員会等の名称の院内の組織が、審査を行うのが普通です。委員会の承認後も、実施前に文書をもって説明し、その上で患者ないし家族から同意書を取得、実施後は終了報告書を、重大事故が発生した場合は、事故報告書を提出するといったことが行われ、そうした書類は書式が規定され、恣意的な報告がなされることがないようになっています。上記8例の死亡事故では、何れも審査申請もなかったといいます。また事故報告書がきちんと作成されていたかも問題です。もし事故報告書が出されていたら、同じ医師が同じ手術で同じ事故を起こしていれば、当然、次回の審査ではねられる等のことがあって然るべきです。群馬大学には臨床研究倫理審査委員会という組織があるのですが、本来はここの審査を受けるべきであったようですが、この組織が実際どのように機能していたのか、精査する必要があるでしょう。
本件では驚いたことに、保険適応外の手術であったのに、保険適用と騙して健康保険組合から治療費を受け取っていたのことである。保険適応外の手術となると、それだけで、必要な決裁を受けなければならず、それを避けるためにこのようなことを行ったのでしょう。ここまで来ると滅茶苦茶ですね。
仮にこうした審査を受ける機会を逸したとしても、群馬大学の医療安全管理指針には、4項にインシデント報告、5項にアクシデント報告の規定が置かれています。
「インシデント報告制度については、その基本的考え方、報告範囲、事象レベル、報告手順などを安全管理マニュアルやポケットマニュアルに明記し、研修などを通じて全職員に周知徹底する。インシデントの報告は罰則や人事査定に結びつけないことを前提とし、過失の有無や事象レベルを問わず行われるべきであることを全職員に理解させる。報告収集されたインシデントから当院における問題点が把握され、それに基づき改善策の企画立案を行う。改善策の実施状況を定期的に検証・評価し、必要があれば見直されなければならない。」(4項)
「重大な医療事故発生時には、院内連絡網に従い関係各部署に報告が伝達され、院内横断的な医療チームを組織して患者救命のための最善の医療を行う。病院長は必要に応じて医療事故調査専門委員会を召集し、事故の原因究明や事故再発防止策について協議する。患者・ 家族に対しては、逐一事実および経過を報告説明し、誠意ある対応を行う。医療事故調査専門委員会では、医療法施行規則に基づく報告や公表についても審議を行い、社会に対する説明責任を果たす。」(5項)
「アクシデント」とは、患者に何らかの変化が生じ、治療・処置を要したもの、集中治療や生命維持のための措置を要したもの、事故が死亡に関連した疑いのあるものをいい、インシデントは、日常診療の場での「ヒヤリ」「ハット」を含むため、実施前に気づいたもの、実施したが何ら影響がなく患者に変化がないもの、何らかの影響を与えた可能性があり、観察の強化や検査の必要性が生じたものを広く指しています。
群馬大学での患者死亡例が、アクシデントかインシデントかは議論がありえますが、初回の死亡例はインシデントと報告されていれば、2回目、3回目以降はアクシデントとして報告されるべきものではないでしょうか。この執刀医が報告しなければ、周りの医師、看護師が報告すべきでしょう。組織的に隠ぺい体質があったのではないかと疑われます。
インシデント報告数がどのくらいあったか、数だけでもその病院の本気度が分かるでしょう。ちなみに都立病院での報告総数は、インシデントが23,295件で全体の96%を占めています(残りの4%がアクシデント)。ここではハインリッヒの法則(1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというもの)が生きています。群馬大学ではどうだったのでしょうか。興味のあるところです。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹