企業法務コラム

「コロガシ手形貸付」一部解禁 新マニュアルで

1月20日、金融庁が金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]へ新たな事例を追加しました。今回追加された事例は、「書替えが継続している手形貸付等(これを取り上げた日経記事は「短コロ」と呼んでいますが、「コロガシ手形貸付」の方が呼称として一般的ですし、名が体を表しています。これは3ヶ月、6ヶ月、1年後に一括返済という条件で貸し付けるのですが、実際のところは、期日が来ると、手形をジャンプさせる、そういった手形貸付のことを言います。)をどのように判断するか」というものであり、以下の趣旨が明確化されました。
・決算書の数字では正常運転資金の範囲を超えるものでも
・書替え時の売上、キャッシュフローや今後の見通しによっては
・正常運転資金として判断して問題ない

銀行の融資額を1999年度と2013年度で比較すると、短期融資と長期融資のシェアの割合が大きく変化しています。
・短期融資額…都銀55%減、地銀47%減、第2地銀51%減
・長期融資額…都銀28%増、地銀72%増、第2地銀31%増

高度成長期は、銀行が短期融資をバンバン行い、増資で資金集めのできない中小企業の運転資金を助けていました。利息だけ払っていれば、借りっぱなしにできるので疑似資本とも言われました。
しかし、バブルが崩壊し、銀行の不良債権が問題化すると、金融庁が「金融検査マニュアル」を発表し、銀行も簡単に手形貸付を転がし続ける訳に行かなくなりました。
正常な運転資金を超える部分で、分割返済が困難なために継続融資になっており、リスクに見合わない金利を設定している場合には、当該貸出は、条件緩和債権になることが明らかにされました。
こうなると銀行が打つ手は二つしかありません。一つはリスクに見合うだけの金利を払わせること、もう一つは正常な運転資金を超える部分は、継続融資から切り離して、長期貸付に切り替えることです。こうして、銀行の短期融資はどんどん長期貸付に置き換えられていったのです。

さて、例えばここに、売上が落ち、運転資金が5億円から3億円に落ちてしまった企業があったとします。これまでですと、銀行としては2億円を長期貸付に切り替えるところですが、今回の新マニュアルでは、「今正常運転資金が落ち込んでいるのはいわば瞬間風速が一時落ちただけなのかもしれない。」という意識を持ち、「しかし、会社の様子を見ると売上も上昇し、運転資金も5億円に復するかもしれない」と見るだけの材料があるのであれば、「今は貸し剥がさないで、もう少し様子を見よう」ということが許されるようになったのです。

ただ、これで融資環境が劇的に変わるとは言い切れません。銀行員としては「金融庁も政権から言われて、一応中小企業の金融を助けるために、転がし手貸しも認めてやれなんて言っているけど、いざ金融庁検査で『これで売上が戻る見込みがあったなんて甘すぎでしょう。』なんて、ちゃぶ台返しをやられるかもしれない」なんてことを不安に思うからです。
あながち杞憂ではないでしょうから。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2015年02月09日
法律事務所ホームワン