企業法務コラム

松阪牛とルイ・ヴィトン 木曽路に排除命令の方針

しゃぶしゃぶ店などを運営する木曽路が、メニューに松阪牛などと表記しながら実際には安価な他の和牛を使っていた問題で、消費者庁が、景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして、今月中旬にも同社に対し再発防止を求める措置命令を出す方針を固めたことが10月7日、分かった。
同社によると偽装があったのは2012年4月~今年7月で、大阪市と神戸市、愛知県刈谷市の3店でしゃぶしゃぶ、すき焼きなどに「松阪牛」「佐賀牛」と表示していたが、他の和牛を使い、計7171食を提供していた。

※参照
2014年10月7日 毎日新聞
木曽路:措置命令へ 牛肉偽装、再発防止求める 消費者庁


(評)
景表法は、景品についても金額的上限を設け、かつ、過大広告や虚偽広告等を排除することで、本当に良い製品が市場で優位を占めるようにする目的で制定された法律。元々は、公平な競争を確保するための法律として、公正取引委員会が監督官庁だったが、平成21年改正により、消費者保護規制の一つとされ、監督官庁も消費者庁に代わっている。
景表法違反の事実が判明したからと言って、直ちに措置命令がなされるわけではない。措置命令の対象予定者に対し、予定される措置命令内容を伝え、弁明書及び証拠書類等を提出する機会を付与し、弁明の内容等を踏まえて措置命令が行われる。年間800件がほどが調査対象となり、うち40件ほどに措置命令、400件ほどに「指導」が行われる。措置命令がなされたということは、消費者庁が今回の木曽路の偽装を悪質とみているからと言っていいだろう。
8月15日の記者会見で、社長は「使っていたのは黒毛和牛の5等級のリブロース、サーロイン。当社の中では一番高いグレードの肉だ。その上に位置する商品として、松阪牛がある。決してグレードの低い肉ではない。仕入れ価格は公表を控えるが、世の中では最高グレードとして取り扱われている肉だ。」「木曽路の店舗で提供しているのは、非常に上質な肉。味の面では大きな差はない。」
と弁明した。

※参照
2014年8月16日 東洋経済ONLINE
しゃぶしゃぶ木曽路、"松阪牛は偽装でした" 詳報!謝罪会見の一部始終


この社長は、この問題の本質を全く理解していないと言って良い。周りの役員はどのようなアドバイスをしていたのか。レベルが低すぎて悲しくなる。
要は「ブランド」とは何かという問題である。ブランドは一朝一夕には築けない。ブランドを築き上げるのも大変だが、それを維持するためにも大変な労苦が必要だ。松阪牛は高級和牛の代名詞。ここまでブランドを築き上げ、維持するのには並大抵の努力では済まなかったはずだ。木曽路の行為は、こうした生産者のブランド確立、維持のための努力を踏みにじるものだ。また、松阪牛がブランド牛だからこそ、大金を払った消費者の信頼も裏切っている。
ヴィトンのバッグの偽物を作った業者が「でもうちのバッグは、最高級の皮と最高級の職人を使って作り上げたものなんですよ。品質面で大きな差はないんです。」と言ったら、ヴィトンは勿論、消費者も怒るだろう。頑張って貯めたお金で買ったヴィトンのバッグが偽物だったら、怒り心頭のはずだ。松阪牛も全く同じ次元の問題だろう。
なお、一連の食材の虚偽表示をきっかけに、消費者庁は不当表示に関する売上高に3%の課徴金を科す制度の導入を目指しており、今国会に同法改正案を提出する方針だ。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2014年10月10日
法律事務所ホームワン