企業法務コラム

電子債権 利用1兆円

「でんさいネット」の累計利用額が1兆円を突破した。
2013年2月の開業から1年弱で,利用登録をした企業は30万社以上に達した。手数料収入が見込め,手形に比べて処理コストも安いため,銀行も普及に積極的。三井住友銀行は企業が営業所や支社ごとに受け取るでんさいネットの電子債権を本社でまとめて管理出来る決済サービスを提供。みずほ銀行は14年2月から電子債権を担保に運転資金の融資を始めた。三菱東京UFJ銀行では,電子債権担保融資の実績が約10件に達した。全銀協は経団連と連携して普及を促す方針。

※参照
2014年2月10日 日本経済新聞
「電子債権の累計利用額が1兆円突破 銀行、担保に採用」

(評)
電子債権は正式には電子記録債権と言う。2008年12月1日に施行された電子記録債権法により創設された新たな債権である。電子債権記録機関(法務局のようなもの)が管理する記録原簿(登記簿のようなもの)への債権情報の記録により債権が発生し、譲渡も記録原簿に記載されることによってなされる。でんさいネットは、正式には株式会社全銀電子債権ネットワークといい、全国銀行協会が100%株主の会社で、電子債権登録機関である。
電子記録債権法は、取引の安全を保護するために次のような特色がある 振込先口座、期限の利益喪失事由、利息、遅延損害金、違約金等も記録原簿に記録できるため、その債権の内容が客観的、かつ、明瞭(16条)。
 電子記録債権を譲り受けた者は、譲渡人が無権利であっても、悪意重過失を立証されない限り債権を取得することができ、(19条)
 支払義務者は、債権譲渡人に対して主張できた取消、無効等の抗弁を、譲受人に害意あることを証明しない限り、これを譲受人に主張することはできない(20条)
 電子記録上、債権者が、実際に債権を有しない名義人に対してした弁済も有効であり、真の債権者が争うには弁済者の悪意、重過失があったことを証明する必要がある(21条)
 電子記録債権の譲渡、債務の保証、根保証、質権、根質権設定は、記録原簿への記録が要件となる。
 主債務として登録されている者が債務を負担しない場合であっても、保証人として電子記録に登録された者は、原則、保証責任を免れない(33条)。
 電子債権を分割することができるが、記録原簿に記録されることが要件となる(43条)。
電子記録債権は、通常の商事債権(5年)、売掛金債権(2年)と違って、3年で時効にかかる(23条)ので、注意が必要だ。
電子記録債権制度は、事業者、特に中小企業の資金調達の円滑化等を図るために創設されたものである。中小企業は立場が弱いため、取引先からの代金債権、請負報酬の支払が2ヶ月先、3ヶ月先ということも珍しくない。それが手形であれば、銀行で割り引いて貰うこともできるが、普通の売掛金だと支払い日まで待つ必要がある。電子債権の支払期日も、2ヶ月後、3ヶ月後ということは当然ありうるが、買取、割引を受けることによって、手形と同様に支払期日前の現金化が可能である。また、手形や通常の債権と違い、自由に分割できるため、100万円の電子記録債権を、50万円のもの2本に分け、1本はA社への支払、1本はB社への支払のために譲渡すると言ったことも可能です。
期日まで持っていれば、手形と違って銀行に持ち込む必要ななく、支払期日になると窓口金融機関の口座に自動的に入金される。
他にも、債権者にとって、手形とちがい、管理に気を使わないというメリットもある(手形は盗まれたら終わり)。
電子記録債権には、発行者にとって印紙が不要のため経済的、手形の発行・振込の準備など支払いに関する面倒な事務負担が軽減され、手形の搬送コストも削減できるというメリットがある。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2014年02月19日
法律事務所ホームワン