企業法務コラム

M&A、会計処理見直し

経済産業省の有識者会議が27日に提言し、3月中に新制度の報告書をまとめるが、この中で企業買収の結果生じた「のれん」について,国際会計基準や米国会計基準と同様に,減価償却しない方向で検討されることになった。

2014年1月27日 日本経済新聞
「M&A、企業の負担軽減 会計処理見直し 政府検討、再編後押し」

(評)
例えば、A社が,純資産額が800億円のB社を1000億円で買収したとする。そうすると、資産として,現金が1000億円減って、800億円の現物資産(B社が保有する現預金、商品在庫、債権等)が増えることになり,その差額の200億円が宙に消えてしまう。これを防ぐために、会計上は現金を1000億円マイナスにすると同時に、800億円の現物資産プラス200億円の「のれん」を資産に計上してバランスをとることになっている。すなわち、「のれん」とはその企業の現物価値を超える「将来の利益ないしブランド力」である。この場合、A社は、B社について、現物価値プラス200億円の価値があると考えたことになる。
国際会計基準や米国の基準では、のれん代の償却はしない。買収が成功して利益が伸びていれば、そのままのれんとして計上しておくし、買った企業の市場価値が目減りしたときには一気に損失を計上する。日本基準では、たとえば「のれん」が200億円で、これを5年で償却すると(注)、会計上は、年間40億円利益が減ってしまう。
しかし、これはあくまで数字上のことで、実際40億円損を出す訳ではないのだが、一般投資家からすると、その分損をしているようにみられてしまう。
もっとも、新制度は必ずしも買収企業側にとって、いいことばかりではない。減価償却が認められない分、利益が増えるため、現行制度のままだと儲かってもいないのに法人税だけが高く取られてしまう。また、被買収企業の価値の目減りは外部からは見えにくいのに、あるとき一気に損失を計上するとなると、一般投資家からすれば予想外の損失を負いかねない。前者については、税制上負担軽減策を講ずる必要があるし、後者については開示方法への工夫が必要だろう。
ところで、上記記事によると、経産省が約300社の国内企業を対象にM&Aが進まない理由を尋ねたところ、45%が「のれんの評価が難しい」と回答していることをもって、今回の改正の必要性を説いているのだが、この点は疑問だ。のれんは将来の企業価値を予測して評価するものだから、不確定要素が大きく、なかなか評価が難しい。
企業が二の足を踏むのは、そこの部分であって、のれんが償却されるか否かは別の問題のはずである。

(注)
日本の会計基準上、20年以内に償却するべきであるとされているだけで、具体的に何を基準に何年として償却するのかについては明確に規定されていない。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2014年01月28日
法律事務所ホームワン