企業法務コラム

阪神阪急ホテルズ社長「誤表示」会見 表示にコンプライアンスの観点を

阪神阪急ホテルズがホテルのレストラン等でメニュー表示と異なる食材を使用していた問題で、同社の出崎弘社長は24日の記者会見で、謝罪はしつつも、「従業員が意図的に表示を偽って利益を得ようとした事実はない。誤表示と思っている。」とも釈明した。原因を従業員の認識・知識の不足とし、「偽装ではなく誤表示」と強調した。

※参照
2013年10月25日 日本経済新聞 朝刊
「食材「偽装でなく誤表示」 阪急阪神ホテルズ社長、謝罪し強調」

(評)
他の新聞でも報道されているが、同ホテルのレストランでは「冷凍保存した魚」を「鮮魚のムニエル」と、「トビウオの卵」を「レッドキャビア(マスの卵)」と、「一般的な青ネギ、白ネギ」を「九条ネギ」と、「自家菜園以外の野菜」を「ホテル自家菜園野菜」と、「バナメイエビ」を「芝海老」とメニューに表記した例があったという。この事例がさらに進んで景品表示法(正式には「不当景品及び不当表示防止法」)に違反しているかどうかということも将来的に問題になる可能性もある。景品表示法は、商品・サービスの品質、内容、価格等について虚偽表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限することなどにより、消費者がより良い商品・サービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守るための法律だ。 
同法4条1項1号は「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」となっている。景表法違反があった場合、最悪、消費者庁から措置命令(表示の訂正、再発防止策等)が行われ、企業名が公表されることになる。
メニューそのものを見ていないので明言はできないが、レッドキャビア、九条ネギ、自家菜園野菜は、不当表示とされる可能性がある。
ただ、微妙なのは「鮮魚のムニエル」。「鮮魚」という表現があいまいだからだ。例えば「鮮魚店」という看板は普通に掲げられているが、通常そこでは、冷凍品も普通に売られている。JASには「鮮魚」という分類はなく、「生鮮食品」と「加工品」の区別しかない。そして「生鮮食品」には冷凍した魚を解凍したものも含まれている。もっとも解凍したものは「解凍」と表記すべしとされている。鮮魚とは生鮮食品に該当する魚のことを言うから、冷凍品も含まれるし、調理したものについてはJAS表示は必要がないから、解凍とか、冷凍とかの表記は不要だと言う考え方もあるかもしれない。そもそも「鮮魚」の意味を調べても、ネットだと「新鮮な魚」くらいしか書かれていないため、冷凍品でも新鮮なうちに冷凍したものであれば鮮魚と言っていいのではないかという意見もあるだろう。
「芝海老」も微妙だ。昔は東京の芝というところの沖で獲れたため、この名前がついたが、今では東京湾に芝海老はほとんどおらず、日本の各地で取れた同種のエビが「芝海老」と言われている。そうすると、国内の同種のエビだったら芝海老と呼んでも良いが、外国産の同種のエビであれば芝海老と呼んではいけないのか、このあたりもはっきりしない。
ただ、一つ言えるのは、このように呼称がはっきりしないものについては、会社の方で「この素材は、この呼び方をする」というルールを作るべきだろう。そうでないと現場が混乱する。大手企業であれば、呼称を決定するのに第三者も入れておいた方が良いかもしれない。後で問題になった後「身内だけで決めたのではバイアスがかかる可能性もあるので、外部からも人を入れた」と言えるかどうかで社会の反応もかなり違ってくるだろう。
もう一つは「君子危うきに近寄らず」ということになろうか。社内でこうした議論をすると、売上を上げたい営業サイドからは、「ほかの会社と同じ表示をしていたのでは売り上げは上がらない、この程度の表記であれば、どこの会社でもやっている。」と強く言われるだろうが、コンプライアンスの観点からもいうべきことを言っておかないと、あとになってレピュテーションリスクを生じる場合がある。そしてそのリスクは虚偽表示をして伸ばした売上以上のものになる可能性が往々にしてある。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2013年10月25日
法律事務所ホームワン