企業法務コラム

ぴあ、ももクロ特集本で印税をめぐる不正

10月17日、株式会社ぴあは、自社が出版したももいろクローバーZのムック本「ももクロぴあ vol.2」について、印刷部数を虚偽報告して印税を少なく支払っていたことを公表したうえ、矢内廣社長を3か月間、減俸10%とするなどの処分を行った。
同書籍の発行部数は当初6万部の予定であったが、その後ぴあが方針を変更、10万部で出版することにした。しかし、ぴあは、このことをももクロの所属事務所のスターダストに伝えず、印税も6万部分しか支払わなかった。スターダストとしては、印刷部数証明書なり取次会社の配本明細書等をぴあが交付することを、出版契約に入れておけば、実際の部数をチェックすることはできるのだが、東証1部上場のぴあを信頼し、敢えてこうした規定を入れなかったようだ。そのため、本来はばれないはずであったが、ぴあの一編集部員がスターダスト社にこの事実を通報し、発覚した。

※参照
株式会社スターダストプロモーション 「重要なお知らせ」
ぴあ株式会社 「当社刊行物における不祥事件について【詳細】」

(評)
印税とは「税」という字がついているが、出版社が著者に支払う著作権使用料のことである。1冊につきいくらという単位で支払われるが、発行しても売れるかどうか分からないので、印税は発行部数ではなく販売部数に応じて支払われるのがふつうである。
ただ初版については、最低何部発行するから、その分を先に支払うということはありうる。その場合出版契約書には「B出版は最低でも本件書籍を5000部(以下「保証部数」という)発行するものとし、平成●年●月●日限りこれの印税として金●円をA指定の銀行預金口座に送金して支払う」と規定し、販売部数の多寡にかかわらず、保証部数については印税を支払う旨約束することが多い。
ただ、その後何部発行されるかは、出版社には分かっても、著者が当然に知ることはできない。嘘をつかれても困るので「B社は、本出版物の発行部数を証するため、著者Aに対し製本のつどその部数を報告する。Aの申し出があった場合には、B社はその証拠となる書類の閲覧に応じる。」といった規定を置くことになる。ただ、出版社を信用して、証拠を出せとは言わないのが普通だ。昔は著者が1冊ごとに、印を押して、出版社が部数を誤魔化さないようにしたのだが、現在はそのようなことは行われていない。」
ところで、ぴあの行った印税のごまかしが詐欺罪になるかといえば、ならない。詐欺罪の場合、人を欺す行為、それに基づいて、被害者が財産を処分したり、加害者に経済的利益を与えたりしなければならない。本件ではこうした処分行為がない(説明すべきをしなかったという不作為の詐欺はあるだろうが)。
公益者通報保護法があるかといえば、これもない。上記のような事実は通報者保護の対象となっていないからだ。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2013年10月25日
法律事務所ホームワン