【企業法務】医療の安全指針となるインシデント報告とアクシデント報告

2016年03月28日
法律事務所ホームワン

群馬大病院で,一人の医師が肝臓手術を手がけた患者が相次いで死亡した問題が報道されてから,既に1年以上が立ちます。

その後の報道で,消化器の術後に病院内で死亡した64人中,この医師退職が執刀した手術によるものが30人と、約半数を占めていることが分かりました。そのほかにも,保険外診療という難易度の高い手術にもかかわらず,保険診療に偽装することで,必要な臨床試験審査委員会への申請を回避していたり,という院内のコンプライアンスが全く機能していない事実も判明しています。

そのため,外部の有識者でつくる医療事故調査委員会が発足したが,3月27日、過去8年間に死亡した50人のうち43人が、院内の医療安全管理部門に報告がされていなかったことを明らかにしました。事故報告書が出されていたら,同じ医師が同じ手術で同じ事故を起こしていれば,当然,次回の審査ではねられる等のこともあったかもしれません。個人の医師の問題を超えて,院内全体の管理体制の杜撰さが見えてきました。

この問題が発覚する前に,群馬大学の医療安全管理指針には、4項にインシデント報告、5項にアクシデント報告の規定が置かれています。

「インシデント報告制度については、その基本的考え方、報告範囲、事象レベル、報告手順などを安全管理マニュアルやポケットマニュアルに明記し、研修などを通じて全職員に周知徹底する。インシデントの報告は罰則や人事査定に結びつけないことを前提とし、過失の有無や事象レベルを問わず行われるべきであることを全職員に理解させる。報告収集されたインシデントから当院における問題点が把握され、それに基づき改善策の企画立案を行う。改善策の実施状況を定期的に検証・評価し、必要があれば見直されなければならない。」(4項)

「重大な医療事故発生時には、院内連絡網に従い関係各部署に報告が伝達され、院内横断的な医療チームを組織して患者救命のための最善の医療を行う。病院長は必要に応じて医療事故調査専門委員会を召集し、事故の原因究明や事故再発防止策について協議する。患者・ 家族に対しては、逐一事実および経過を報告説明し、誠意ある対応を行う。医療事故調査専門委員会では、医療法施行規則に基づく報告や公表についても審議を行い、社会に対する説明責任を果たす。」(5項)
http://hospital.med.gunma-u.ac.jp/m-ssmc/03.htm

インシデントはいわばヒヤリハット事例であり,アクシデントは実際に死亡した等の重大事例です。事故調査委員会の今回の報告は,アクシデント報告の不備だけが指摘されていますが,インシデント報告が実際機能していたかも問われます。いわゆるハインリヒの法則では,アクシデント事例の300倍のインシデント事例があっておかしくなく,インシデント事例の報告が適切になされていれば,アクシデントも防げたかもしれないからです。

ちなみに都立病院では,インシデント事例が2万2633件(97%)、アクシデント事例が758件(3%)でした(平成26年4月から平成27年3月までの1年間に全都立病院で報告されたレポート)
http://www.byouin.metro.tokyo.jp/hokoku/anzen/iryouanzen271001.html