企業法務コラム

政府、外国人研修・技能実習制度の拡充を検討

建設現場などでの人手不足の対応策として、政府部内で外国人労働者の受け入れ拡大が本格的に検討されはじめた。
政府の産業競争力会議は昨年12月26日、「雇用・人材分科会」の中間整理で、技能労働者を受け入れる外国人技能実習制度の滞在期間を現在の3年から延長するよう、法務省の懇談会で議論し、2014年頃までに結論を得ると盛り込んだ。
東南アジアの国々と個別に建設関係の資格を持った労働者について、時限的な受け入れを協議する案なども検討対象になる可能性がある。単純労働者の受け入れ解禁も中期的に検討対象に浮上している。
しかし、慎重論も強い。菅義偉官房長官は8日の記者会見で、外国人労働者の拡大検討に言及したが、あくまで「慎重に検討する」と強調した。2020年の東京オリンピック開催や震災からの復興の中で「建設に関する人材不足や資材不足といった問題があることは承知している」と指摘し、「まずは若者をはじめとする潜在的な労働力の活用が大事だ」としつつ、「同時に、外国人労働力も、建設需要の規模や国内の労働市場、国民生活への影響などを踏まえながら、政府全体として慎重に検討していきたい」と述べた。

※参考
2014年 1月 8日 ロイター
アングル:政府が外国人労働者の拡大検討、単純労働者受け入れも

(評)
外国人労働力の必要性は否定しない。ただ、政府の外国人研修・技能実習制度を拡充するという方針には同意できない。同制度自体、非常に矛盾に満ちた制度であり、同制度は廃止し、新たな制度設計の下に外国人労働力の導入を図るべきだろう。
外国人研修・技能実習制度は、開発途上国から外国人を招いて、各種の技能・技術等の習得を援助・支援して人材育成を行い、国際社会に貢献することを目的として、1993年から実施された制度である。この制度による国内在留外国人は現在、約15万人となっている。
当初の制度設計は、労働関係法規の適用のない研修生からスタートし、技術をある程度得てから、労働関係法規の適用のある技能実習生に移行するという仕組みになっていたが、労働法規の適用がないことを良いことに、最低賃金以下で単純労働をさせるようなことが横行していた。このため、2009年の入管法改正により、入国当初から「技能実習」の在留資格で、労働関係法令の適用される技能実習を行う制度に一本化され、2010年7月から新制度が施行された。一応入国当初から労働関係法令の適用を受ける形になったが、農業、漁業、縫製などの、日本人が好まない傾向にある非熟練労働の労働力不足解消のために利用されている実態に変わりはない。
厚生労働省「最近における技能実習生の労働条件確保のための監督指導及び送検の状況」(2012年10月25日付け)によれば、2011年度に労働基準監督署によって実習実施機関に対する監督指導が行われた件数は2748件であり、このうち82%に当たる2252件で労働基準関係法令違反が認められている。制度は代わったが実態が伴っていない。
これは、研修名目をうたっているがために、労働者の保護という観点から大きく外れた制度となってしまっているからだ。まず、技能実習生は、技能実習を実施する予定の受入れ機関を特定した上で在留資格が与えられ、原則として職場移転の自由がない。したがって、技能実習生が受入れ機関の処遇に不満を持ったからといって他の職場に転職することはできず、あるいは、受入れ機関の不正行為などを告発すれば、次の受入れ先が見つからない限り、技能実習自体の継続が困難になる可能性が高い。このために、技能実習生は、受入れ機関との間で対等な関係を持つことが困難であり、構造的に、受入れ先と技能実習生の支配従属的な関係を生じさせやすい。
加えて、団体監理型受入れ機関の多くが人で不足に悩む同業者による協同組合形式をとっているため、身内の不正を当然のように見過ごしてしまっているという構造的問題もある。
最早、人材育成という名目は単なるお題目に堕し、非熟練労働者の雇用というのが実態だとすれば、このような技能実習制度は、廃止するほかない。
最早、「国際貢献」や「技術の海外移転」などといった綺麗ごとを言うのは止めて、非熟練労働者の受入れという観点から新たな在留資格を設けることについて、正面からその是非及び範囲などを検討するべきである。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2014年01月09日
法律事務所ホームワン