企業法務コラム

中小企業主、一人親方特別加入の労災 給付金上限アップ

労働者災害補償保険法33条は、中小事業主、一人親方、海外派遣者等を特別加入者とし、34~36条は、これらの者は労災保険に任意に加入(特別加入)できるとしている。特別加入者の給付基礎日額については、厚生労働大臣が定める額としており、上限は2万円とされていた。この上限が今回250000円に引き上げられた。他の一般労働者と差があったのをなくすというのがその趣旨だ。
日経は、海外派遣者についてのみ、この増額を報道しているが(ここが日経なんだよな)、中小事業主、一人親方についても同様に引き上げられているので、注意ありたい。

(評)
労災は本来労働者のためのものであるから、経営者も一人親方も本来は加入できない。しかし、中小企業の社長は、社長室に座っている訳ではなく、現場で従業員と一緒に汗水垂らして働いていることが多い。一人親方など、形式的には事業主だが、実際には元請けの下で元請従業員、他の下請け従業員と同じように働いていることが多い。この場合、社長だから、事業主だからといって労災保険がおりないのは実情にそぐわない。
このため、中小事業主、一人親方も労災保険に入れるよう、特別加入という制度がある。中小企業主の場合は、社長だけでなく、他の役員、家族従事者も一緒に加入する必要がある。加入の際、就業する事業を届出なければならず、かつ、届出事業内に粉じん作業、振動工具・有機溶剤・鉛を使用する作業がある場合は(除染業務も届出の必要あり)、その旨特記する必要がある。加入後、届出業務以外の業務に従事する場合、その旨届け出ておかないと当該業務中の事故については労災がおりないことになる。また、役員、家族従業員に変更があるのにそのままにしておくと、未届けの者の事故にも労災は下りない。
ちょっと複雑なのは、社長、役員が労働者の一緒に現場作業を行っている際の事故は補償されるが、例えば社長が単身取引先に交渉に行く際の事故、従業員が全員休む中で一人だけ現場で作業していた際の事故には補償はされない。
また一人親方の場合、単独では加入できず、一人親方団体(例えば東京建設部会等)に加入する必要がある。 そして、加入した一人親方団体から労働基準監督署に加入申請することになる。また、加入は従業員を雇っていないことが前提であり、年100日以上人を使うようになった場合は、改めて中小企業主として特別加入し直さなければならない。一人親方団体は地域ごとに設立されているため、住所が変わった場合は、その地域の一人親方団体に加入し直す必要がある。
また、一般加入の場合、事故が起きた時点では労災に入っていなくても、事故後勤務開始時点に遡って加入することで労災給付が受けられるが、特別加入は任意加入によるもののため、こうした過去に遡っての加入ということはできない仕組みになっている。
このように面倒くさいし、仕組みが複雑なため、加入しないという人が多い。しかし、いざ事故が起きた場合、元請企業には安全配慮義務違反が問われる可能性があるため、下請関係業者に対して労災保険の特別加入を促し、加入していない一人親方の現場への入場を認めないなど徹底した管理を行うことが多い。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2013年07月12日
法律事務所ホームワン